球体とリズムBACK NUMBER
ルヴァン優勝で流れた曹監督の涙。
「湘南スタイル」の本当の意味とは。
posted2018/10/29 11:40
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Getty Images
試合終了の笛が鳴った直後、曹貴裁監督はピッチの上に突っ伏した。「絶対に泣かないと決めていた」のに、涙はとめどなく溢れてきた。
湘南ベルマーレに初のメジャータイトルをもたらした49歳の指揮官は、大勢のサポーターが埼玉スタジアムのゴール裏に作り上げた巨大な緑と青を見ながら、「言葉になりません」と赤い目で話した。
優勝セレモニーが終わったあと、記者会見場に登場した時は、いつもの曹さんに戻っていた。抑揚のあるよく通る声でファイナルを振り返り、時折、ジョークを飛ばして報道陣を笑わせる。
二度の降格は辛かったが……。
涙の理由については、「本当にそんなつもりはまったくなかったけど、これまでのことを思い出して。心が折れそう、ではなくて、何度も折れてたから。ギリギリのところでやってきたことが報われて、選手たちがよかったなと。(ピッチに)寝てても誰も来ないから、自分で起きましたけど(笑)」と説明した。
決勝の数日前には、ベルマーレに来てからの13年間でもっとも苦労したことを訊かれ、「自分がやっていることが本当にクラブのためになっているのかを自問自答する」ことが多かったと明かしている。
二度の降格の経験は辛かったはずだが、「痛みがわかるようになった」と自らの糧とした。
元々は「監督を目指していたわけではない」人だ。現役生活を終え、ドイツのケルン体育大学へ留学した理由も、「かたちの上ではサッカーの勉強と言っていたけど」、世界が見たかったからだという。