ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
田中恒成と木村翔、最高のボクシング。
終了直後に抱き合った似つかぬ2人。
posted2018/09/25 11:30
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBO世界フライ級タイトルマッチが24日、名古屋市の武田テバオーシャンアリーナで行われ、挑戦者1位の田中恒成(畑中)が王者の木村翔(青木)に2-0判定勝ちし、日本人選手として6人目となる3階級制覇を達成した。
試合は戦前の予想を超える濃密な激闘。両雄のプライドがぶつかり合った一戦は、世界タイトルマッチにおける日本人対決の歴史に新たな1ページを加えるものとなった。
試合終了とともに、激しい打ち合いを繰り広げた田中と木村は反射的に抱き合った。木村が「強かったよ」と声をかけると、田中が返したセリフは「疲れたので座ってもいいですか」。ユーモアにくるみながらも、偽りのない本音だった。すべてを出し切った試合だった。
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木村は高校時代にボクシング経験があるとはいえ、やんちゃな10代を送り、20歳を過ぎてから本格的にボクシングをはじめた。デビュー戦はKO負けだ。資金に恵まれた有力ジムではなく、テレビ局の後ろ盾もない。噛ませ犬的な役割を期待されて乗り込んだ中国で世界タイトルをもぎ取った木村は、自他ともに認める“雑草王者”だった。
対する田中は小学校時代にボクシングをはじめ、高校では全国大会を制するホープとして早くもその名をとどろかせた。プロデビューをはたすと地元放送局の全面的なバックアップを受け、日本最速記録となるプロ5戦目で世界タイトルを獲得。
今回の試合も世界最速タイ記録をかけて3階級制覇に挑むというのだから、本人が好まなくとも“エリート”の呼称はついてまわった。
エリート側から前に出て行く展開。
こうした背景もあり、試合は木村がガンガン前に出て、田中がこれをうまくいなし、テクニックで勝負に出るのではないか、というイメージがなんとなく出来上がっていた。しかし、田中はスタートから足を止めて木村と打ち合った。
「今回の試合は気持ちの勝負」。試合前から繰り返していた言葉をリングで実行に移したのだ。
雑草王者は「ずっとさばくような選手じゃない。あれは想定内」と振り返ったが、結果的に木村の出鼻をくじく作戦は成功だったと言えるだろう。