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引退して4カ月の狩野舞子が振り返る、
人に支えられたバレーボール現役生活。 

text by

林田順子

林田順子Junko Hayashida

PROFILE

photograph byHideki Sugiyama

posted2018/09/12 11:00

引退して4カ月の狩野舞子が振り返る、人に支えられたバレーボール現役生活。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

私、競争って上手じゃないんです。

 バレーボールは大好きだったし、今でも大好きです。でも、ずっと辛かったですね。練習も毎日きついし、試合だって勝つ瞬間まではやっぱり辛いし。勝負を楽しみながらも、やっぱり辛いことのほうが多いんですよ。家族や指導してくれた先生、色々な方々を思い浮かべて、絶対に結果を残さなきゃダメだって、勝手な自分のプレッシャーに押しつぶされるのも、きつかったですね。

 現役時代はずっと人や何かと競争をしているんです。ただ、私、多分あまり競争って上手じゃないんです。それでも日本代表に入りたいと思ったら、争わなくてはいけない。コートの中にいるということは、誰かに勝ったから入っているわけで、やっぱり責任があるわけです。そういうものを背負ってやっていくのは、簡単な気持ちじゃできないし、それなりの覚悟を持ってやっていく必要がある。ただ、それを自分で背負いすぎてたのかなというのはありますね。

 若いときから注目してもらって、名前が先に出ちゃった部分も少しプレッシャーでした。自分のなかで、注目度と実力が比例していなくて、「私まだ、そこまでじゃないのにな」って思いながらやっていたんです。今なら当時の自分を冷静に「きつかったな」って考えられますが、そのときは中学生とか高校生でしたし、自分が思っている以上に注目されて辛かった……というか、嫌でした。今思うと、カメラも結構押しが強い感じでついてきたりとか。もちろんそれはありがたいことでもあるんですけど、当時はやっぱり分からなくて。自分が頑張って、それに見合う活躍をすればいいのかと思ってはいても、それでもどうなのかなぁという感じでした。

引退を決めたのは、やりきったから。

 もちろん、うれしかったこともあります。一番はイタリアのチームに所属していたときの試合。すごく弱いチームで、1勝もできないままシーズンが終わろうとしているときに、最終的に準優勝したチームと対戦して、勝ったんです。そのときちょうどイタリアまで母親が試合を見に来てくれていて。母親の誕生日が近かったし、勝つ瞬間を見せることができたのが本当にうれしくて。みんなも優勝したかのように喜んでるし。結局シーズンで勝ったのはその1回だけだったんですけどね(笑)。

 逆にロンドン五輪のメダルは、う~ん凄かったなぁ……って感じです。そこに行くまで本当に頑張ったし、色々な思いが詰まったメダルではあるんですけど、それはそれなんですよね。本当に素晴らしい経験になりましたけど、過去のことですし、私はメダルを取った、メダリストだ、ってタイプでもないので。

 引退を決めたのは、やりきったな、と思えたから。2年前に復帰した時点で、そんなに長くはないなと思っていたんです。そのぶん、短い時間で一生懸命やろうって考えていました。だから去年のリーグが終わったときに、迷いもなく「もういいかな」と自然と思えました。

 選手に戻りたいと思うことはないでしょう。もしバレーボールをやるなら、昔の仲間たちと、楽しくやりたいですね。競争とか大会はもういいかなって。

狩野舞子

狩野 舞子Maiko Kano

1988年7月15日、東京都生まれ。小学4年の時にバレーボールを始め、八王子実践中学3年時にアテネ五輪全日本女子代表候補に選出され、注目を集める。その後、腰痛やアキレス腱断裂などを乗り越え、イタリアやトルコでもプレー。'12年ロンドン五輪の代表メンバーに選出され、28年ぶりとなる銅メダル獲得に貢献。今年5月、惜しまれながらも現役を引退。

毎回1名のゲストの「生き方」「人間性」にフォーカスし、そこにある「美しさ」をあぶり出すBS朝日の番組。ビジュアルだけではなく、精神的、健康的など様々な角度から“肉体に宿る美”を探ります。スポーツ総合誌「Number」も企画協力。

MC:浅尾美和

第20回:狩野舞子(バレーボール)

9月14日(金) 22:00~22:24

元バレーボール選手の狩野舞子さんは中学3年生で代表候補に選ばれるなど早くから才能を発揮、2012年ロンドン五輪では日本女子28年ぶりの銅メダル獲得に貢献しました。しかし、惜しまれながらも今年5月に現役を引退。30歳になり、これまでにない自然体の自分と向き合う彼女の日常に迫ります。

第21回:木村文子(陸上)

9月21日(金) 22:00~22:24

陸上100mハードルの木村文子選手は、日本選手権を5回も制した第一人者。2012年ロンドン五輪では世界の強豪と渡り合い、昨年の世界選手権では日本女子初の準決勝進出という快挙を成し遂げました。彼女を加速させるもの、それはロンドンとアメリカ、異国での経験と感動でした。

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