炎の一筆入魂BACK NUMBER
当たり前のように勝つ広島の強さは、
当たり前のように走る新井にあり!
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/09/04 08:00
カープのチーム盗塁数は2016、2017年に続いて今年もリーグトップ。走力が強さを支えていることも間違いない。
何度も何度もスタートを切る新井。
セ・リーグの勝者と敗者を分けたのは「当たり前のことを当たり前にできること」。これが相手に隙を与えなかった要因だったように感じる。
象徴的だったシーンは、7月24日の甲子園球場。
1つのファウルに、三塁側ベンチの広島ナインが沸いた。三塁側ベンチの選手たちが両手をたたいて見つめる先は、打席の安部友裕ではなく、一塁走者。肩で息をしながら一塁に戻る新井貴浩だった。
リードを3点に広げた6回の2死一塁。フルカウントから安部の打球は三塁側スタンドへ。スタートを切っていた新井はすでに二塁を回り、三塁方向へ体が向いていた。
2死一塁でフルカウントならば、走者がスタートを切るのは常識。新井はそれをやっただけなのだが、あれだけのベテラン選手が“外野を抜ければ一気に本塁に返ってやろう”とする走りはなかなかお目にかかれない。
新井は続く安部への7球目も当然のように“外野を抜ければ一気に本塁に返ってやろう”というスタートを切ったが、結果は空振り三振。
ベンチに戻り、交代を告げられた新井はしばらく、ベンチ裏で呼吸を整えていたという。
チーム最年長が走ると若手も走る!
「新井さん」というキャラクターは、なぜか懸命なプレーがときに滑稽に見えるときがある。
それも今季の広島に活気を与えた一因ではあるが、何よりチーム最年長野手が率先して当たり前のことをやることを示せば、若い選手が手を抜くわけにはいかなくなる。
以前テレビの試合中継で、ある解説者が「広島打線は三振しても、捕手がはじいていたら素早くスタートを切っている」と感想を口にしていたのを覚えている。試合を見ているファンの側としても当たり前のように見ていたプレーではあるのだが、それも実は簡単なことではないのかもしれない、と思うようになった。