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米国での王座奪取は37年ぶり快挙!
伊藤雅雪「もっとデカイ試合を」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byGetty Images
posted2018/07/31 08:00
伊藤雅雪は下馬評を覆し、アウェーのジャッジも大差をつけるほどの完勝を収めた。
後楽園の時とはまったく別人。
アメリカのリングに上がった伊藤は後楽園ホールの伊藤とは別人のように頼もしかった。23勝15KO無敗、プエルトリコ期待のディアスの強打をしっかり見極め、臆せず前に出てワンツーを打ち込んだ。伊藤は試合を通してワンツーを連打したが、こんなコンビネーションはこれまで見たことがなかった。
「1発、2発で終わらず、3発、4発と出していきたい」
渡米前の伊藤の言葉通りである。
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さらにはあまり得意ではなかった接近戦でも優位に立つ。身体を密着させて右アッパー、フック、左ボディブローを細かく打ち込むと、ディアスはいかにもやりにくそうだ。
「映像を見てディアスは接近戦が苦手だと思いました。だから接近戦の対策はかなりやった」
フットワークをつかって相手をさばくのではなく、先手を取って力強いジャブとワンツーを打ち込んでディアスの前進を阻み、ディアスが半歩距離を詰めた刹那、サッと体を密着させてショートパンチを打ち込む。中途半端な距離を徹底して避け、作戦通りに試合をコントロールする姿は見事としか言いようがなかった。
試合開始前、映像に映るリングがやけに小さく、伊藤にリングを広く使われたくないディアスへのサービスと勘繰ったが(会場はほとんどディアスの応援だった)、そんな心配は試合が終わるころにはすっかり忘れていた。
アメリカに拠点を作り世界を目指してきた。
最終スコアは4回にダウンを奪った伊藤が118-109、117-110、116-111で文句なしの判定勝ち。大仕事をやってのけた無名の日本人は歓喜の雄たけびを上げた。
高校までバスケットボール選手として活躍し、部活動を終えると同時にボクシングをはじめた。駒澤大在学時にプロデビュー。抜群のバネとスピードを生かして連勝を重ね、内藤律樹(E&Jカシアス)との日本タイトルマッチに敗れたものの、OPBF王座やWBOアジアパシフィック王座を獲得した。'15年にはアメリカに拠点を作り、何度も合宿を張って腕を磨いた。