プレミアリーグの時間BACK NUMBER
イングランドのW杯が久々に熱い!
PK戦の呪いを解く8強で英雄扱い。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Imges
posted2018/07/07 07:00
進撃のイングランドを率いるガレス・サウスゲイト監督。スーツの着こなしなども注目を浴びる敏腕指揮官だ。
キャプテン・ケインの鋼のような精神力。
24歳にしてキャプテンの重責を担うケインがその象徴だ。PKのチャンスの場面で、相手の執拗な抗議や遅延行為で3分ほど時間が空いても、鋼のような精神力でど真ん中に先制点を蹴り込んだ。またPK戦でも、1番手のプレッシャーをはね退けて力強く決めた。
守護神のジョーダン・ピックフォードもそうだ。185cmの高さ不足が不安視されていたが、俊敏さと腕力を生かした片手セーブで5本目もストップした。また120分間を通しても、持ち味の足下の技術は抜群だった。
ピックフォードの好セーブの直後、勝利を決めたのはエリック・ダイアーだ。24歳のボランチ兼DFは、開幕戦からベンチを温める辛い時間を過ごしていた。コロンビア戦では延長後半に絶好機にヘディングを外してもいた。それでも、「決めなきゃいけないと思っていた」という責任重大なPKを、ゴール左下隅に冷静に決めてみせた。
そのPK戦での勝利は、後半アディショナルタイムに追いつかれたショックから立ち直って延長戦を戦い抜いたからこそ訪れた。
延長前半はコロンビアに押されたが、後半15分間は、焦らずに後ろから繋いで攻める「新生イングランド」スタイルで優勢を取り戻した。120分間でイエローカードは6枚、ファウル数は23を数えた相手の挑発にも耐えて、自分たちの在り方を見失わずに延長戦終了の笛を聞いた。
サウスゲイトが着手した実戦的なPK練習。
PK戦では、ケインから20歳の控えFWマーカス・ラッシュフォードまで、チーム全員が口にしてきた「スピリット」と「一体感」も見られた。
選手たちの落ち着いたパフォーマンスは、3月の代表合宿から行われてきたPK練習の賜物。EURO1996準決勝敗退時、PKを失敗した過去を持つサウスゲイトは、練習でも本番同様の緊張感を味わうために、ハーフウェーラインからペナルティマークへ歩いてから蹴らせる念の入れようだった。
またキッカーの選択には、チームスタッフの心理学者のアドバイスや心拍数などのデータも参考とした。
もちろん、選手たちが本番でナーバスにならなかった要因には「みんながついている」という信頼感があったからだろう。例えば、チームメイトに毎回歩み寄ってボールを手渡していたピックフォードの姿は、「孤独な勝負」と言われるPK戦も「チームとしての戦いなんだ」と言っているかのようだった。