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2400人が目撃。ボルダリングW杯で
“チームJAPAN”が起こしたドラマ。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAtsushi Hashimoto
posted2018/06/15 11:00
女子優勝の野口啓代(右)と準優勝の野中生萌。
16歳・伊藤ふたば6位に飛躍の予感。
開幕戦からボルダリングW杯にレギュラー参戦している伊藤ふたば(16歳)は、過去4大会は距離の遠さやパワーが求められる国際大会ならではの課題に苦戦したが、八王子大会では自身初めて準決勝を通過した。「予選中はアドレナリンが出ていたから痛くなかったけど、終わった途端に痛くなった」という左肩に大会2日目はテーピングをして臨み、決勝は0完登1ゾーンで6位。万全のコンディションではない中での決勝進出は今後の飛躍を予感させた。
ほかの日本勢では、予選を突破したのは35歳の加島智子のみ。ユース年代のほとんどの選手たちは課題の得手・不得手の差が激しく、予選には彼女たちの苦手な課題が多く出たこともあって苦戦した。それでも試合後は各自が長所と改善点を再認識し、今後へのモチベーションに変えていた。遠くない未来に彼女たちは孵化するはずだ。
男子は楢﨑とモロニのハイレベルな争い!
男子決勝でも最終課題での逆転に次ぐ逆転で優勝が決まる争いが繰り広げられた。第3課題を終えた時点で5位に沈んでいた楢﨑智亜は、最終課題を1度目のアテンプトで完登。この時点でトップに立ったことを理解する来場者から割れんばかりの大きな拍手が鳴り響き、昨年の八王子大会は最終課題で逆転を許して悔し涙を流した楢﨑のリベンジ達成で終幕かと思われた。
しかし、ここで終わらないのが、「スポーツは筋書きのないドラマ」と言われるゆえんだ。直後に登場した最終競技者のガブリエレ・モロニ(30歳・イタリア)が圧巻のクライミングを見せて再逆転。準決勝からモロニの抜群のパフォーマンスを目にしてきた来場者からは、ボルダリングW杯デビューから苦節12年目での初優勝で涙に暮れるモロニへ、この日一番の大喝采が送られた。
「悔しいは悔しいけど、追い込まれてから決められたので内容的には良かった。攻められたことに成長を感じた」
そう語った試合後の楢﨑の表情はスッキリしていた。結果は昨年と同じ2位だが、決勝戦の途中で指を痛めて本来の力を発揮できなかった昨年とは違い、現時点のベスト・パフォーマンスを発揮できた充実感に満ちていた。
今年からIFSCのルールが変更になり、決勝に限りアイソレーションゾーンで他選手の競技結果を見ることができるようになった。そのため、ワールドカップ第1戦のマイリンゲンでは、「ものすごいプレッシャーがかかる」と野口が語ったように、今回の八王子でも同様に、第4課題でのアテンプト数が優勝を左右することが分かっており、壁の後ろではプレッシャーとの戦いがあったことは想像に難くない。