イチ流に触れてBACK NUMBER
打撃投手イチロー、華麗なるデビュー。
監督も絶賛するWIN-WINの関係とは?
posted2018/06/10 08:00
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Kyodo News
6月5日、テキサス州ヒューストン。
灼熱の太陽が照りつける午後2時過ぎにもかかわらず、開閉式ドームであるアストロズの本拠地ミニッツメイド・パークの屋根は開いていた。
体感気温は、およそ36度にも及んでいた。それでも早出特打を行ったマイク・ズニーノ、ベン・ギャメル、ギレルモ・ヘリディアの3人は気持ちよさそうに快音を響かせていた。
打撃投手が打ちやすいボールを投げているから、と思うのはひいき目であろうか。
打撃投手イチロー、メジャー18年目にしてのデビュー。
テンポ良く約100球を投げ込んだイチローは気持ちよさそうに汗をぬぐった。
「面白い。いい練習になるね、うん」
イチローはこれまでも、オフになるとひとりケージで、ネットに向かいボールを投げてきた。打撃投手のそれも、昔からのルーティン・トレーニングと全く同じこと。来季以降の現役復帰へ向けての鍛錬のひとつ、と言う位置付けに変わりなかった。
「指先の感覚で(送球は)どこへ行くかが決まるのでね。それは野手のスローイングと同じことですよ。肩を使うことも大事なことですからね」
打撃投手は、あくまでもバッターのために。
投球を終えたイチローは、今度は誰もいない中堅へ向かい、打球を追った。早出特打では外野を守る者はいない。広い空間を縦横無尽に走り回り、ジャンピングキャッチやお得意の背面キャッチも見せた。5月2日を最後に今季の現役を退いた44歳にとって、これほどの運動量をこなすことができた日はなかった。久々に味わった野球選手としての小さな満足感。喜びを感じていた。
「(周りに)遠慮しなくていいからね。うん。いい練習になりますよ」
打撃投手と外野守備で約30分。イチローにとって充実の時間になったことは間違いなかった。
だから、思った。
今後も早出練習では打撃投手役を買って出て、その後は外野で打球を追う。それが彼にとっていい練習になる。だが、イチローの考えは違った。
「バッターがどう感じているか。これが良ければね。それがわからないからね」