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テニスの試合後会見はスリリングだ。
ジョコビッチや杉田祐一に見た内面。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2018/05/16 11:00
ジョコビッチの会見のワンシーン。対戦相手だけでなくメディアとの“駆け引き”も、有名選手には必要なのだろう。
ポジティブさが強く出すぎた感も。
「負けたことはもちろん残念だが、テニスの向上についてはうれしく思っている。2試合しかしていないんだ。でも、その二人はタフな相手で、タフな試合だった。ポジティブな要素を見つけることもできる」
ジョコビッチは感情を封印し、淡々と答えた。ただ、ポジティブであろうとする気持ちが強く出すぎた感もあった。
「世界が終わるわけじゃない。長年プレーしてきて、山ほど成功も収めてきた。僕はそれを心にとどめたいし、そのことをうれしく思っている。誰かに強制されてプレーしているのではない。自分がやりたいから、好きだからやっていることなんだ。それが僕に幸せをもたらす。強さの源なんだよ。テニスが好きでいる限り、前に進みたい。それだけです。ありがとう」
長年、運命共同体を築いてきたコーチのマリアン・バイダやフィジオなどのスタッフが約1年ぶりに陣営に戻ったが、復調への道はまだ険しい。グルテンフリーにとどまらず、完全菜食主義に踏み切ったといううわさも聞こえてくる。ジョコビッチの今がくっきりと映し出された会見だった。
「トップレベルで悩めるのは貴重」
杉田祐一のマドリードとローマでの記者会見も興味深かった。彼も昨年の好調から一転、もがいている。初戦敗退はローマで8大会連続となった。
マドリードでは、こんなやりとりがあった。遅咲きの杉田は以前、負けが込むとなかなか抜け出せない悪癖があった。それを念頭に「なつかしい感じではあります」と自虐的なジョークをかまし、こう続けた。
「トップレベルでこうして悩んでいられるというのは本当に貴重な経験」
四大大会本戦出場をなかなか果たせず、苦しんでいた頃に比べれば、贅沢な悩み、次のステップにつながる経験という意味だろう。
選手とは、こうやってポジティブな要素をいくつもつなぎ合わせてツアーの過酷さと闘うのだ。