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テニスの試合後会見はスリリングだ。
ジョコビッチや杉田祐一に見た内面。
posted2018/05/16 11:00
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
Getty Images
テニス選手にとって試合後の記者会見は義務である。メディアからの要請があれば、正当な理由なしに拒否できない。敗れた選手でも同じ。ミックスゾーンを素通り、はありえない。
試合終了後1時間前後で行なうことが多いため、興奮と歓喜、失意と落胆をそのまま会見場に持ち込む選手も多い。泣きはらしたような目であらわれたり、心の中で泣いているのが分かる場合もある。大坂なおみが昨年、全米のインタビュールームで涙を流したように、選手が急に泣き出すのも珍しい出来事ではない。
ただ、感情や心の内をストレートに吐き出す選手は少数派だ。
今はテレビのコメンテーターもつとめる沢松奈生子さんは、様々な思いを一度飲み込んだうえで、冷静に、しかも記者が使いたくなるような気の利いたフレーズを織り込んでくれることが多かった。試合後、涙を流すこともあったが、シャワールームで悔しさと一緒に洗い流し、会見に臨むと聞いた。
グルテンフリーのスイーツを配るジョコ。
いずれにしても、選手が素顔をさらす貴重な機会である。ときには自分を守ろうと虚勢をはり、両者の間に透明な壁が立ち塞がるケースもあるが、それはそれでスリリングだ。
ノバク・ジョコビッチは第一人者にふさわしく、どんな質問にも丁寧に冷静に受け答えする。ビッグトーナメントの優勝会見で、記者たちをねぎらおうと(グルテンフリーの)スイーツを配るのも恒例行事だ。ただ、意地の悪い質問にやや気色ばんで答えたり、母国セルビアに関する質問に長広舌をふるうこともある。
マドリードでジョコビッチは初戦で錦織圭に競り勝ったが、2回戦で若手のカイル・エドモンドにフルセットで敗れた。ジョコビッチは試合終了後すぐ会見場にやってきた。
シャワーさえ浴びていない様子。悔しさや失意を洗い流すだけの時間はなかっただろう。