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Bリーグ準々決勝のビッグショット。
三河・比江島慎が天を指した理由。
text by
青木崇Takashi Aoki
photograph byB.LEAGUE
posted2018/05/14 17:00
レギュラーシーズン48勝12敗、勝利8割という圧倒的強さで中地区優勝を飾ったシーホース三河。
唯一の選択肢は比江島のアイソレーション。
残り31秒で田臥勇太に2本のフリースローを決められ、76-75の1点差になった直後のオフェンスは、正に昨年のことを思い起こさせるような局面。桜木がもう出られなくなったことに加え、栃木の徹底マークで金丸がシュートをほとんど打てない状況が続いたことからすれば、三河にとっての選択肢はたった1つ。比江島が1対1で攻めるアイソレーションだった。
ビッグマンをスクリーンにしてのピック&ロールからオフェンスを仕掛けると、栃木のディフェンス対応次第で比江島はチームメイトにパスせざるを得なくなる危険性もあった。
この状況とターンオーバーの危険性を極力避けるための作戦としては、喜多川修平との1対1からシュートを打つのが、三河にとってベストの選択。栃木もアイソレーションで来るとわかっていたものの、ヘルプに行くか否かの決断を下すのが非常に難しかった。
「昨年の悔しい思い出が甦えるというか、パスだけはしない、自分が(シュートを)打ち切る。落ちても(アイザック・)バッツやシムズが(リバウンドを)取ってくれると信じていたので、気楽にではないですけど、打ち切ることだけを考えていました」
こう語った比江島は、ゴール正面でドリブルからゴールへアタックすると見せかけながら、左側へ少し動いたところでジャンプストップ。躊躇することなく放たれたシュートは、見事にリングの間を通過する。
残り11.9秒でスコアは78-75。ウィングアリーナ刈谷に駆けつけた三河ファンの大歓声が湧き上がる間、普段あまりジェスチャーをしない比江島が、少し顔を上げながら、人差し指を天に向けた。
「見ているのかなと思ったので、母に向けてやりました。母の日なので、それも多少意識はしていました」
シーズン終盤に母を亡くす辛い経験。
レギュラーシーズンの終盤、比江島は母親の淳子さんを亡くすという辛い経験に直面した。日本代表の海外遠征時に必ずと言っていいくらい現地まで駆けつけて応援するなど、淳子さんは比江島にとって掛け替えのない存在。
2016年のリオデジャネイロ五輪最終予選が行われたセルビアのベオグラードでも、淳子さんの姿はあった。五輪最終予選の代表として一緒にプレーし、淳子さんとの面識があった松井啓十郎は、次のように話す。
「うちらが一番一緒に時間を過ごすじゃないですか、練習でも試合でも遠征でも。そういう中でうちらが少しでも比江島がここも家族だという雰囲気を創り出さなきゃいけないし、比江島も優勝してお母さんに報告したいと思うから、そういった意味で最後のシュートや攻め気というのはそういう風に見えたのかな。母の日ということも含め、そういったことが全部混ざっていたというのはありますね」