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倒したい「邪念」を制してKO防衛。
村田諒太、ゴロフキン戦にまた前進。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2018/04/16 11:40

倒したい「邪念」を制してKO防衛。村田諒太、ゴロフキン戦にまた前進。<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

鮮やかな右一発でブランダムラを仕留めた村田諒太。終了直後のインタビューでは「及第点」と振り返った。

「倒さなかったら判定ばっかりって」

 迎えた8回、村田が外角から打ち下ろしの右を叩き込むと、ロープ際に追い込まれていたブランダムラのヒザが砕けてダウン。立ち上がろうとしたもののダメージは大きく、主審が試合を終わらせた。

 正直なところ「物足りない挑戦者」という印象を抱いたファンもいることだろう。世界初挑戦の38歳は、確かにチャンピオンと比べて非力なイメージは否めなかった。

 それでもなお、いやだからというべきか、今回の試合は村田にとってやりにくい試合だったことは間違いない。

「エンダムとの1戦目、2戦目を見てもらった上で、(つまらない試合をしたら)なんだ村田ってたいしたことないじゃん、倒さなかったら判定ばっかりって言われるじゃないですか」

「邪念」を振り払い、冷静に倒した。

 チャンピオンらしい姿を見せたい。ノックアウトで勝ちたい。村田はそういった思いを「邪念」と表現し、今回の試合に向けては前に出すぎず、冷静に戦うことをテーマに掲げた。リングの上で相手と拳を交えながら、はやる気持ちをおさえよう、おさえようと自らに言い聞かせていたのだ。

 それでも、倒したいという気持ちは「無意識下で働いていた」というが、リングサイドで見守る限り、村田は狙い通りに冷静だった。それを強く感じたのが勝負の行方が見えてきた5回以降だった。

 圧倒的優勢なのに詰め切れず、ズルズルとラウンドを重ねる。倒そう、倒そうと焦り、観客のフラストレーションを感じてさらに焦りが広がる。世界タイトルマッチでこうした負のスパイラルに陥った選手を何人も見てきた。

 村田もまさにこのパターンに陥る危険がありながら、決して焦らず(少なくとも周りにそう感じさせず)、得意のワンツーをしっかり打ち込み続け、自分のペースを貫いた。だからこそ結果的に8回のノックダウンは生まれたのだ。簡単なようで簡単でないことをやってのけた。それが村田の初防衛戦だった。

【次ページ】 どうやってゴロフキンにたどり着くか。

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