ライオンズの伝統を受け継ぐ者たちBACK NUMBER
なぜ、源田壮亮は誰からも信頼されるのか。
新人王に学ぶ組織でポジションをつかむ術。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byHideki Sugiyama
posted2018/04/03 11:30
「さっきの球、走ってよかったですか?」
また、リーグ2位の37盗塁を決めたが、舞台裏では走った直後、打席にいた打者にこう尋ねていたという。
「さっきの球、走ってよかったですか?」
新人の果敢なスチールに対し、「じっとしておけ!」なんて言う先輩はいなかった。みんな「全然、大丈夫だ」と肩をたたいてくれた。ただ、源田にはちゃんとわかっているのだ。先輩打者が自分のスチールのために、1ストライクを犠牲にしてくれていることが。
何となく源田が信頼される理由が見えてきた。そして、こういう個性を身につける転機となったのは大学を卒業し、トヨタ自動車に入った1年目のことだったという。
「トヨタは打つ人ばかりで、自分は守備が売りで、たまたまショートで使ってもらえたんですけど、1年目の都市対抗でレギュラーを外されたんですよ。それまでは自分の好きなように野球をやっていましたが、それから考えて練習するようになったというか。コーチにお願いして付きっ切りで守備の練習させてもらいました。それからは信頼してもらえたんですかね……。途中で交代させられることもなくなりました」
最近、当時の居残り練習に付き合ってくれたコーチにこう言われたという。
「あの時のお前は守備が得意で打撃が苦手だったよな。そういう場合、普通の選手は打撃の練習をするんだけど、お前はとことん守備をやった。それが良かったんじゃないか」
そこに至って、ようやく源田はかすかに自分のやってきたことを「案外、悪くはなかったのかもしれない」と思えるのだ。
前の秋山が歩かされ「はあ~」。
ちなみに、その苦手な打撃でも源田は2割7分を打ち、プロ野球シーズン最多安打記録保持者の1番・秋山翔吾と打点王を獲得したこともある3番・浅村栄斗をつなぐ役割を果たした。
「僕は秋山さんの後ろが多かったんでチャンスでまわってくると、秋山さん決めて! と祈っていたんです。でも大抵、秋山さんは歩かされる。はあ~、そりゃそうだよなって。どうしよう、どうしようって思うんです。なめんなよ? いやいや、そういうメラメラしたものは昔からないんで。困ったなあって……。でも、不安だから野手の守備位置を見たり、セーフティーバントとか、なんかできないかなと考えるんだと思います」