野球クロスロードBACK NUMBER
渡辺直人、涙のトレードから8年後。
引退ではなく楽天復帰で「恩返し」。
posted2018/02/10 07:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Kyodo News
背番号「26」に特別な想いはない。
「何番でもよかった。空いている番号を選ばせてもらっただけですよ」
そう言って、楽天の渡辺直人は顔をほころばせる。
何よりも重要なのは、8年ぶりに古巣に帰ってこられたこと。久しぶりに足を踏み入れたKoboパーク宮城(現・楽天生命パーク宮城)のロッカー。泥まみれになりアピールを続けたキャンプ地・久米島……。プロ入りから4年間過ごした球団への愛着がじわり、じわりと自身の胸に押し寄せてくる。
直人が、楽天に帰ってきた――。
春季キャンプ。そこには、8年前と変わらない直人の姿があった。
室内練習場を出るとサインを求めるファンが行列を作り、直人は最後のひとりまで丁寧に応じる。それは、彼にとって当たり前のファンサービスなのだろう。
直人が静かに口を開く。
「ライオンズ時代も、仙台で試合をするとたくさんのファンが声をかけてくれたから」
今でも、直人は楽天への感謝の気持ちは忘れていない。むしろ、ますますその想いは強まっている。
「やりきった」から「やりきりたい」への情熱。
本音を言えば、昨年、西武を戦力外となった際に「やりきった」という感情が芽生えた。37歳。ベテランと呼ばれる直人にとって、それは「引退」の二文字を意味していた。
その直人に、真っ先に声をかけたのが、古巣の楽天だった。
心が震える。「やりきった」から「やりきりたい」へ――直人に情熱が沸き立つ。
「プロ野球選手にとって理想なのは、最初に入った球団で終わることだけど、また呼んでもらって。年齢的にもここが最後になると思うと、『イーグルスに恩返しをしたい』という気持ちは強いですね」
直人のこの言葉。ファンの琴線に間違いなく触れる。あの、「涙のトレード」から8年。誰からも愛された男が、再びクリムゾンレッドのユニフォームを着てプレーするのだ。