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「キタサンロス」はどう埋まるか。
ディープ、オグリの時を振り返ると。
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa
posted2018/01/11 07:00
観客を呼ぶ馬、という意味でキタサンは正確にディープの後継者だった。さあ、次はいつどんな馬が登場するのだろうか。
武が繰り返した「めぐり逢えてよかった」。
すべてのレースが思い出だという。
「4歳からコンビを組んだのですが、乗るたびにどんどん強くなった。どんなに苦しい場面でも勝ってくれて、騎手として成長させてくれました。いろいろな経験をさせてもらいました。歌わされそうになるプレッシャーもあったし。そこから解放されたのだけは嬉しいです」
と場内の笑いを誘った武は、こう宣言した。
「私はまだジョッキーをつづけますので、キタサンブラックの仔でGIを勝ちたいと思います。約束します」
武は何度も「めぐり逢えてよかった」と繰り返した。キタサンブラックというサラブレッドは、そのくらい希有な競走馬だった。
父ブラックタイドという地味な血統でありながら、種付料が今年から4000万円になった全弟ディープインパクトの産駒を蹴散らした。そして、母の父がスプリント王のサクラバクシンオーでありながら菊花賞でGI初制覇を遂げ、天皇賞・春を連覇するなど、個の力で競馬の常識を覆した。体が大きかったのに軽やかで、レースぶりは威圧的だったのに気持ちは優しかった。
しかも、オーナーは国民的歌手で、勝てばヒット曲のこの馬バージョンを歌った。
2015年の菊花賞を勝ち、有馬記念で3着となったころはまだ「強豪の一角」という存在だったが、武とコンビを組んだ2016年、17年の2年間は押しも押されもせぬ主役として、日本の競馬界を牽引してきた。
そんなキタサンブラックがいない競馬を、私たちは見ていくことになる。
やはり寂しい。
昨秋、昨シーズン限りでの引退が発表された時点でこうなることはわかっていたのだが、私たちは、この「キタサンロス」をどうすればいいのだろう。
ディープが引退した時、「次のディープ」を探した。
以前も、こうしたスターホースの「ロス」があった。
昨年と同じくイヴのグランプリとなった2006年の有馬記念で有終の美を飾ったディープインパクトが引退したあとだ。
「ディープロス」を埋めたかった私たちは、当然、「次のディープ」を探した。ディープの主戦だった武がオーシャンエイプスで'07年1月20日の新馬戦を勝ち、「追えば飛ぶかもしれない」とコメントしたとき、みなが夢を見た。しかし、同馬は次走のきさらぎ賞で4着に敗れ、重賞未勝利のまま現役を終えた。
私たちを「ディープロス」から救い出してくれたのは、1943年のクリフジ以来64年ぶりに牝馬としてダービーを勝ったウオッカと、そのウオッカを桜花賞で破り、翌年の有馬記念などを制したダイワスカーレットという2頭の歴史的名牝だった。