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「お前、ほんとに調教師になったの?」競馬にまったく興味がなかった“異端の調教師”が、皐月賞馬ミュージアムマイルと挑むダービー制覇

posted2025/05/31 11:02

 
「お前、ほんとに調教師になったの?」競馬にまったく興味がなかった“異端の調教師”が、皐月賞馬ミュージアムマイルと挑むダービー制覇<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

2025年皐月賞を制したミュージアムマイル

text by

江面弘也

江面弘也Koya Ezura

PROFILE

photograph by

Kiichi Matsumoto

「別格」と思われていた本命馬を差し切って、皐月賞を制した。一躍ダービー戦線の主役に躍り出た駿馬を鍛え上げたのは、「競馬に興味がないまま、この世界に入った」という47歳。新進気鋭のトレーナーは、いかにして初の大舞台に臨むのか。
 発売中のNumber1120号に掲載の[異端の調教師と目指す頂点]ミュージアムマイル「ほかのG1と同じ気持ちで」より内容を一部抜粋してお届けします。

「競馬にはまったく興味がなかった」

 北海道門別町(現日高町)の牧場にうまれた高柳大輔調教師は、高校、大学と馬術部に所属し、ノーザンファームで競走馬の育成に携わったのち、栗東トレーニングセンターにはいった――。

 こう書くと、競馬社会のエリートコースを歩んできた調教師のように思えるのだが、本人は、「競馬にまったく興味がなかった」と言う。その歩みがおもしろい。

 家は牧場でも馬には関心がなかった大輔少年は、中学ではサッカー部に所属し、高校でも続けるつもりだった。ところが、おなじ高校の馬術部にいた兄(高柳瑞樹調教師)に馬術を勧められ、馬術部の顧問からも「推薦で大学に入れてやる」と言われて馬術をはじめた。大学のときには競馬場でアルバイトもしているが、「バイトはバイト」で競馬に興味は向かなかった。

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「大学を卒業するときに、あらためて自分にできることを考えたら、高校、大学と馬に乗っていたので、競走馬の育成なら稼げるかなと。ぼくが一般社会に対応できるのかという心配もあったので(笑)」

 当時はいわゆる就職氷河期だった。高柳は馬術の経験を生かしてノーザンファームに就職するのだが、牧場では「言われるとおりに乗っていただけ」で、競走馬にも競馬にも関心がなかった。

「たぶん、血統とかすごくいい馬に乗せてもらっていたと思うんですけど、覚えてないんです。なんか、きつい馬に乗ってるなと思ったぐらいで(笑)」

 そのころ、一緒に働いていた仲間がJRA競馬学校の試験を受けてトレセンに職を求めていくのを見て、高柳はトレセンの存在を知る。そして、ノーザンファームが滋賀県甲賀市にあるグリーンウッドの施設を間借りしたときに現地へ赴いた高柳は、近くの栗東トレセンで競馬学校厩務員課程の試験を受けて合格。'03年11月に大久保龍志厩舎にはいる。それでもまだ競馬はよく知らない。

「大久保厩舎にはいって番組表をはじめて見て、『こんなにクラス分けされてるんだ』って言ったら、『ばかか、お前』って、みんなに笑われて(笑)」

「お前、ほんとに調教師になったの?」

 そんな感じだった。しかし、自分が携わった馬がレースで走るのを見ると、どんどん競馬がおもしろくなった。'05年に安田隆行厩舎に移った高柳は、'09年に調教師試験を受けている。美浦トレセンにいた兄が受験しているのを知り、「自分も受けないといけないのかな」と思って受けはじめ、9回めで合格した。競馬に興味がないまま競馬社会にはいった高柳は、'18年に厩舎を開業する。40歳だった。

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