“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
ヴェルディ、鹿島で磨いた気遣い。
初代表・三竿健斗はいないと困る男。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2017/12/09 07:00
今も優秀な逸材を輩出する東京Vユース。三竿健斗もそこで育ち、今は鹿島イズムに育まれている。
高校時代から変わらない、攻守両面の安定感。
最終戦のアウェー・ジュビロ磐田戦。最後の最後で王座を川崎フロンターレに明け渡すスコアレスドローに、三竿も大粒の悔し涙を流した。その一方で、鹿島はリーグ戦ラスト3試合はすべて無失点で切り抜けた。この安定感が評価され、彼はE-1サッカー選手権を戦う日本代表に選出された。
この安定感は、高校時代から持っている特徴だった。
三竿を初めて取材したのは東京Vユースの一員だった高1の時、チームのスウェーデン遠征に帯同した時のことだ。
チームには井上潮音(現・東京V)、神谷優太(現・湘南)ら技術の高い選手が多かったが、三竿のゲームコントロール能力は際立っていた。ボランチの位置で俯瞰するかのように、危険なスペースを埋める。ボールを受ければ絶妙なタイミングで縦パスを供給する。攻守両面でセンスを感じさせた。
三竿はピッチ外でも印象的だった、食事会場などでも常に笑顔を浮かべると同時に、他の海外クラブの選手にも積極的に接していた。帰国子女だったこともあり、英語が堪能だったバックボーンもあるとはいえ、場を和ませる力はかなりのものだった。
欧州のスカウトも「伸びしろでは一番の選手」。
その才能は、2013年のU-17W杯で発揮された。MF三好康児(川崎)ら小柄な選手が多い中、180cmの三竿は4-3-3のアンカーとしてロシア、チュニジアといった相手にも空中戦で対等に戦った。さらにインターセプトから素早く放つライナー性の縦パスは、今のプレースタイルと共通する。
ヨーロッパのクラブのスカウトと話をした時、注目した選手の名に真っ先に三竿を挙げていた。
「小柄な選手が多い日本の中でも、彼は全く違う要素を持っていた。フィジカルに優れ、落ち着きと技術を持ち合わせている。伸びしろでは一番の選手だ」
2015年には東京Vのトップ昇格を果たした三竿は1年目でレギュラーを獲得。2年目でいきなり鹿島というビッグクラブ移籍を掴みとった。昨年はリオ五輪本戦出場こそならなかったが、AFC U-23選手権ではチーム最年少として招集され、優勝を経験した。
この大会、出番はサウジアラビア戦の1試合のみだった。だが「僕のピッチ外の活躍が優勝につながったと思う」とパーソナリティーを存分に発揮。彼の一発芸がチームを盛り上げたことは有名な話だ。
ただその行動は、決して“おちゃらけ”ではなく“チームファースト”という意識で行動している。すべてはチームとして勝利するため、チームが最高の雰囲気で試合に臨むため。だからこそ、彼の行動は高校時代からずっとぶれていない。