マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
高校球界屈指のショートが大集結。
晩秋の熊野は、次世代の才能の宝庫。
posted2017/12/04 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Masahiko Abe
熊野の駅の名前は「熊野市」という。
駅のホームからすぐ改札の小さな駅だが、そこから南に真っすぐ5分も歩けば、目の前は一面の海になる。
熊野灘……大きく言えば、太平洋である。
水平線が横真一文字。その両端が丸く見える。
何年前の「くまのベースボールフェスタ」の時だったろうか。遊学館か富山一高か、北陸から来た選手だったと思うが、「太平洋を初めて見た」と驚いていた選手がいた。
どう思った? と訊いたら、こう返ってきた。
「この先がアメリカなんだなって、思いました」
それだけで、ここまで来た甲斐があったね……と、なんだかとても嬉しかったのを覚えている。
このフェスタは1チームが1日2試合、2日で4試合。すべて別々の相手と試合をすることになり、どこも4チームを相手に練習試合を行なう。今年は15チームが参加した。延べ30試合、くまのスタジアムや地元3校のグラウンド、くろしおスタジアムを会場にして行なわれた。
初日からドーンと胸に来た男、中神拓都。
初日の第1試合から、ドーンと胸に来る選手と出会えたのは、幸先がよい。
市立岐阜商の遊撃手が、目立って体格が違う。
背丈は水準でも、ユニフォームを内側から押し返すような下半身の充実は、ほぼ“限界”だろう。もうこれ以上太くなれない、ならなくてよい。
中神拓都(なかがみ・たくと/2年・174cm82kg・右投右打)遊撃手のスローイングが興味深い。
強く投げようとし過ぎないのがいい。指先の腹をすべらせるようにして、そっと投げているようで、ボールは勝手に伸びていく。力を入れ過ぎないので球筋も安定して、ボールにスピンをかけるコツを知っているかのように見える。