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サニブラウンが駆けた変革の1年間。
香川真司やガトリンにも励まされ。 

text by

及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

PROFILE

photograph byHiroyuki Nakamura

posted2017/10/31 08:00

サニブラウンが駆けた変革の1年間。香川真司やガトリンにも励まされ。<Number Web> photograph by Hiroyuki Nakamura

競技以外ではあどけない表情を浮かべるサニブラウン。「日本人9秒台」をめぐる狂想曲の主役の1人であることは確かだ。

オランダでの練習では全てを直された。

 5週間の南アフリカ合宿を終え、2月上旬からオランダ陸連が本拠地を置くトレーニングセンターで練習を始めた。雨が多く、気温5度前後のオランダでは室内トラックでの練習がメインになった。東京出身のサニブラウンにとって雪や寒さは堪えた。

「(高校の卒業式のために)帰国したら、もうオランダに戻ってこないかもしれないです」と弱音を吐くこともあった。

 スパイクを履いてのスタート練習では、スターティングブロックの位置、体の角度、足の着き方まで全てを直された。通常は適応するのに時間がかかるが、「飲み込みが早い」とレイダーが言うように、すぐに習得。ウェイト練習で筋力がついたことと基礎練習のドリルによって足が流れる癖も直り、前でしっかり踏みこめるようになった。

 課題のスタートがうまくできる度に、サニブラウンは笑顔を浮かべるが、周囲から褒められると「いや、まだまだです。最初の3歩が……」と決して満足はしなかった。

大きなフォームで走る姿に皆が思わず魅入る。

 チームメイトたちがサニブラウンの真価に気づき始めたのはこの頃だった。サニブラウンが大きなストライドで走ると、狭い室内トラックに踏み込む音が響き渡る。グイグイと大きなフォームで走る姿に、皆が思わず魅入る場面が何度となくあった。

 4月1日に米国で行われたフロリダ・リレーでは約10カ月ぶりに試合に出場し、400mと800mの両リレーで好走。4月中旬には100mで10秒18の自己ベスト、200mも20秒41とロンドン世界陸上の参加標準記録を突破した。

「いい形でシーズンインできたと思う」と笑顔を見せたものの、その後は期待はずれな結果が続く。5月の上海ダイヤモンドリーグ、ゴールデングランプリ川崎は長距離移動や気候の変化で万全の体調ではなかったことが影響し、10秒22、10秒42と平凡な記録に終わる。さらに日本選手権前の最終確認として出場したオランダでの200mは21秒10と惨敗。練習では好タイムを出していたが、2カ月ぶりの200mに「走り方を忘れてしまった」と反省を口にした。

【次ページ】 器用過ぎて必死さに欠けていたサニブラウンに……。

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