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松井大輔が語るポーランドでの戦い。
「ドラクエで言えば別のダンジョン」 

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

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posted2017/09/22 11:30

松井大輔が語るポーランドでの戦い。「ドラクエで言えば別のダンジョン」<Number Web> photograph by AFLO

キャリアで10クラブ目となるオドラ・オポーレ。未知の環境を常に求める松井大輔は、今も楽しそうだ。

「あったかい環境で成長する選手もいるけど、僕は違う」

――移籍を決断した理由は何だったんですか?

「磐田はチームや環境、人間的な部分もふくめて、地域密着型の素晴らしいチーム。一言で表現するとしたら、『あったかい』かな。そういう環境に自分が甘えているような気がすることもあった。そこで力を発揮して成長する選手ももちろんいるけれど、僕は違うんじゃないかなって。

『このままでいいのか? これから俺はどんな風に進むのか?』と自問自答し始めたんです。心地よい生活を守るような生き方は、俺らしくないんじゃないかって。挑戦とかチャレンジとか前へ進むとか、いろんな言葉があるけれど、自分は自分の道を進みたい。ケガで引退を余儀なくされる選手もいる。だからこそ、俺は自分ができるという自信がある限り前へ進みたいと、進むべき道を選びました」

――最後の広島戦後には、サポーターから温かいエールが贈られました。

「思ってもいなかったんで、想定外の出来事だった。俺は磐田出身でも、長く在籍した選手でもないしね。自分としてはずっと一匹狼で、1シーズン1シーズンやってきたから。京都ですらセレモニーなんてやってない。うれしいとか感動したとか、そういうのを通り越して、複雑な気持ちになった。『申し訳ない』って。1年で昇格できなかったし、自分のプレーをあまり見せられなかったから。チームのためにという気持ちを強く持てたのが磐田だったけど、同時にもっと自分を、自我を出すのが松井大輔だと改めて思えたのも磐田での経験があったから。だから俺は今、ここに来たから」

ファンからの怒号を浴びて「戻ってきたなぁ」。

 8月12日、オドラ・オポーレはホームに上位のミェジ・レグニツァを迎えた。6分に先制点を決めたものの、前半終了間際に同点、66分には逆転を許してしまう。そして、70分、8月9日に加入会見をしたばかりの松井大輔が投入される。しかし、その松井がボールを失い、オドラ・オポーレはPKを与えて、試合は2-4と敗れてしまう。

 PKの原因は松井のミスにある。サポーターの怒号が彼に浴びせられた。

「最悪のスタートだった。でも、サポーターの怒鳴り声を聞いて、『ここはヨーロッパなんだ』と思い出した。サッカーの本質というか、ヨーロッパの人はみんな“サッカー”を見ているから、いいプレーをすればほめたたえてくれるし、そうじゃなければ、『寝てるんじゃねぇよ』みたいに、メチャクチャ言われる。戻ってきたなぁ、戻ってよかったと。日本の感覚でプレーしてた自分を思い知ったし、目の覚めるような感覚だった」

――ホームは5000人くらいの小さいスタジアムですが、それだけに、サポーターも原始的というか、シンプルな熱に包まれているんじゃないですか?

「やっぱり戦う、戦っている選手に対して、熱くなるよね。戦う姿勢を見せないと認めてもらえない空気があるから」

――チームの調子がいいと、試合に出るのも簡単ではないですよね。

「そういう部分もあると思うけれど、チャンスは必ず来る。それに負けがこんでいる状況よりも、勝っているほうが楽しいから」

【次ページ】 カズさんに「俺、引退します」とか言えないよ。

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