酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
激しい首位打者争いの意外な盲点。
打率を上げるには打数を減らせ?
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2017/08/19 09:00
首位打者を取れば三冠王も視界に入る柳田。秋山との熾烈な争いを制することができるか。
安打1本の比率が大きい、打数が少ない打者が有利。
さて、今年の両リーグの首位打者争いもなかなか見ものである。
パは、ソフトバンク・柳田悠岐と西武・秋山翔吾、1988年生まれの同級生の競り合いだ。なお両選手は2015年に、ハイレベルの首位打者争いをしている。
最終的に柳田が502打数168安打、打率.363で首位打者になり、秋山は602打数216安打、打率.359で2位に甘んじた。この年秋山はNPBの安打数記録を更新している。つまりNPB史上1位の「安打製造機」でありながら、首位打者にはなれなかった。
これはなぜなのか。
打率争いは原則として「打数が少ない方が有利」だからというのが一因としてあるだろう。打率を算出する上で“分母”となる打数が多いと、“分子”である安打が増えても打率がなかなか上がらない。
昔、青田昇さんが解説で「A打者は安打1本打つと2厘5毛上がる、でもB打者は2厘しか上がらない。Aの方が有利だよ」というニュアンスを口にしていた。シーズン終盤になると、安打1本の比率が大きい打者=打数が少ない打者が有利なのだ。
秋山、イチローに共通する安打と打数の多さ。
今季の両者の成績を比べてみる(8月16日終了時点)。
1位 秋山翔吾(西) 419打数142安打 打率.339
2位 柳田悠岐(ソ) 354打数114安打 打率.318
秋山が2分1厘リードしているが、今のところ秋山の安打1本で上がる打率は2厘5毛、柳田は2厘9毛だ。今季の秋山は長打力がアップしているが、今、パで最も恐れられている打者は柳田で、四球数79はリーグ1位だ。ここから柳田が安打を重ねていけば、追い抜く可能性は十分にあるだろう。
秋山は安打数とともに打数も多い打者で、同じタイプにはイチローがいる。イチローは、MLBで2度首位打者を取っているが、このほかに2回、激しい首位打者争いを繰り広げたことがある。
<2007年 ア・リーグ >
1位 オルドニェス(タイガース)595打数216安打 打率.363
2位 イチロー(マリナーズ)678打数238安打 打率.351
<2009年 ア・リーグ>
1位 マウアー(ツインズ)523打数191安打 打率.365
2位 イチロー(マリナーズ)639打数225安打 打率.352