酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
板東英二って実は凄い球児だった。
16回完投の2日後、延長25回完投。
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byKyodo News
posted2017/07/23 09:00
近年はゆで卵のイメージが強すぎるが、板東英二という人は日本野球界に一石を投じる役割を果たしていたのである。
「ぼくはあまり疲れてはいなかった」と意地を張った。
板東は前日の試合で野手と衝突し、膝を痛めていたが麻酔薬を打って登板。試合後「まだへばらない」と語るなど、驚異のスタミナだった。ちなみに「一球入魂」で有名な野球指導者の飛田穂洲は「いままでにあれくらいいい試合はなかったと思う」と感激したほどだったという。
柳井との決勝戦後、新聞は「板東、ついに力尽く」と書き立てた。確かに奪三振も減り、相手ナインもボールがよく見えたとのコメントを残したが、板東本人は「ぼくはあまり疲れてはいなかった」と意地を張った。徳島商の須本監督も「板東がこれだけ打たれたんだから、いうことはない」と言った。
この大会で板東がマークした「奪三振83」は、いまだに夏の大会の記録として残っている。
新入団当時の注目度は王、張本より上だった?
その後、板東は慶應義塾大学に入学するつもりでセレクションを受けたが、家計が苦しく中日ドラゴンズに入団する。同級生の王貞治は巨人に、張本勲は東映に入団したが、注目度では板東が一番だった。
後年、解説者になった板東が中日vs.巨人戦の解説を担当した際のやり取りが忘れられない。
板東「何を隠しましょう、王貞治選手と私は、同期の桜でして。入団した時は、私の方がずっと有名選手でした。今や月とスッポンですが」
アナ「……」
板東「そんなことない、って言わんかー!」
今では信じられないような話だが、当時は本当のことだったのだ。