野球善哉BACK NUMBER
15人全員使う、全打席フルスイング。
弱くても奇想天外な高校は魅力的だ。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/07/20 17:00
大らかに最後の夏を楽しむ“普通の高校球児”も目にできる。地方大会の良さは、そこにあるかもしれない。
「やっぱり、試合は出なくちゃ面白くないし……」
「全員野球」を掲げるチームは全国に数多いが、それはあくまで、全員で心を1つにして戦うという、一種のキャッチフレーズであることが多い。その一方で古谷監督が目指しているのは、それぞれが身につけるべきことを習得し、試合でその力を発揮することである。
「やっぱり、試合は出なくちゃ面白くないし、出ないと自分に何が足らないか分からない。全員を出すということで、選手の伸び率が変わってくると思います。競争が生まれるというのもありますし、責任が生まれると思うんです。普段からさぼれない。自分は試合に出るときには何ができるか? 代打の子もいれば、バントをする選手もいる。試合の中で自分の役割を自覚してやってくるようになってきました。
僕は普段の練習でメニューを決めないんです。選手たちに自分たちで考えさせてやっているんですが、自分の果たす役割を分かっていること、自分から動くことって大事だと思います。練習で自分なりに工夫して調べたり、こちらが指示するのではなくて、自分で考えて探して、手に入れる。この習慣が身につけば、社会に出ても、役割を果たせる。自ら動ける人間になっていくのではないかなと思います」
対戦相手の打線は、とにかくフルスイングしていた。
一方、対戦相手の県柏も面白い発想で野球に取り組んでいた。
とにかくフルスイングを欠かさなかったのだ。例えば2番打者の鈴木凌太はフルスイングを1打席目から4打席目まで貫き、1打席目に右翼線を破る二塁打を放っている。
県柏は県下有数の進学校で、グラウンドは内野しか使えない厳しい環境にある。その中で、チームをどう強化していくかを考えた時、箱崎裕貴監督は「フルスイングしかない」という発想になったのだという。
「僕は思うんですけど、フルスイングをしないことには、自分のバッティングの課題がどこにあるか分からない。思い切り振るから、どこに課題があって、どう解決していくかのヒントをもらえる。うちの学校ではなかなかバッティング練習ができないので、その場は、練習試合になります。常に、振って来るという野球をしてきました」
それが奏功し、練習試合では30点くらい獲ったこともあったという。
「うちは下位打線もホームランが出るんです。思い切り振っていますからね。上位と下位の違いは打率だけであって、長打力はそんな変わらない」
県柏のフルスイング打線は迫力十分だった。しかし最終的には選手交代を小まめに行った成田国際の全員野球がわずかに上回った。