マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
人生を自力で変えた男、SB甲斐拓也。
スカウトが「こいつに賭けてみたい」。
posted2017/07/04 11:30
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Hideki Sugiyama
福岡ソフトバンクホークスが12球団最多の45勝目をマークした6月27日、捕手・甲斐拓也がホームランを放った。
てっきり今季第1号かと思ったら、第2号だという。すると、その翌日28日、今度は2日連続の第3号を打ったから驚いた。
しかも、27日は松田宣浩の左中間弾の直後、そして28日は川島慶三のバックスクリーン横へのホームランの直後。いずれも“たて続け”の2発目だったから、相手チームに与えたダメージは2倍にも3倍にもなったはずだ。
さらに、1日置いた6月30日の楽天戦には、シングル3本の「猛打賞」のダメ押しをマークしたから、もっと驚いた。
その間の4試合。マスクをかぶり続けて3勝1敗。ディフェンス面でもしっかりチームに貢献して驚いてもいたが、どこかで「ああ、やっぱりな……」と変に納得する気分もあって、それが「よかったな……」と祝福する気分につながっていた。
数年前、甲斐に勝手にキャッチフレーズをつけた。
ソフトバンク捕手・甲斐拓也の代名詞は「生命力」だ。
これは、彼の4年目あたりの春のキャンプで、私が勝手に設定したキャッチフレーズである。
当時の甲斐拓也は、まだファームのレギュラーにもなりきれていない、単なる若手の捕手だった。
春の宮崎キャンプも、内野にも外野にも立派なスタンドを持つメイン球場ではなく、それに隣り合ったサブ球場が彼の“舞台”だった。
内外野にネットをめぐらせただけの、練習グラウンドのようなサブ球場で、レガース、プロテクターを装着して動き回る若手捕手たちの中で、いちばん小さいのに、いちばん背中をまっすぐにして立ち、いちばんヒザを上げて動き、人よりちょっとアゴを上げるようにしてポジションに向かう姿が、見るからに「生命力」の塊だった。