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「慎二さんが来なかったらクビに」
西武が涙で送った名コーチ・森慎二。
text by
市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byKyodo News
posted2017/07/03 17:00
追悼試合となった6月30日のオリックス戦。ベンチには森コーチのユニホームが掲げられていた。
一見派手な外見と、礼儀正しい内実のギャップ。
大きく足を挙げるダイナミックな投球フォームと、長身で、整った顔立ち。女性ファンにも人気があった。茶色く染めた長めのヘアスタイルは一見、派手に見えたが、穏やかな性格で、礼儀正しい選手だった。最初に受けた印象との違いに当時、とても驚いた記憶がある。自分からは多くを語らず、いつも他の選手たちの会話を傍で聞いて、静かにほほ笑んでいるような人だった。
2005年に西武を退団し、デビルレイズと契約。アメリカに渡ったあとは登板機会のないまま帰国。その後は独立リーグのコーチ、監督を経て2015年に西武の二軍投手コーチに就任した。
投手コーチとなった当時、二軍には度重なる肩の故障からの復活をかけて、必死で練習に取り組む大石達也がいた。その大石に、カウントを取るボールと、空振りを取るボール、2種類のフォークボールを伝授した。大石は昨シーズン、一軍で36試合に登板し、見事に復活を遂げる。最も大きな影響を受けた投手の1人だった。
昨シーズン半ばからは一軍投手コーチとなり、ブルペンを担当。かつて、自分が多くの打者を抑えたマウンドに、リリーフ投手たちを送り出した。追悼試合となった6月30日のオリックス・バファローズ戦では、そのブルペンにも背番号89のユニホームが掲げられ、選手たちの力投を見守った。
最後に話したのは、今年の1月だった。
筆者が最後に森コーチと話をしたのはキャンプイン間近の今年、1月である。投手陣について聞くと、こう語っていた。
「去年は1年を通して一軍にいた先発がいませんでした。勝ち越した選手も少ない。投手力全体を見ると、よいとは言えないシーズンでしたよね。でも、そんな中でも、中継ぎは期待通りの仕事をしてくれたと思います。あとは先発と、勝ちゲームのいちばん後ろを任せられる投手が大切になってくるので、そのポジションを整備したいですね。一軍に来る投手、みんなが一歩ずつでもいいので成長できるように手助けをしたい。全員が一歩ずつ成長してくれれば、それは大きな上積みになって、去年とは違う戦力になると思いますから」
少しずつの成長が、大きな戦力となる。それだけ潜在能力が高い投手の集まりなのだと、当時、筆者は森コーチの期待の大きさを物語る言葉だと解釈した。