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セナのヘルメットに震えが止まらず。
偉業に並んだハミルトンの敬意。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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posted2017/06/18 07:00

セナのヘルメットに震えが止まらず。偉業に並んだハミルトンの敬意。<Number Web> photograph by AFLO

通算ポールポジション獲得回数で並んだセナのヘルメットをプレゼントされ、ハミルトンはいとおしげに掲げた。

シューマッハーはセナを最速の男として尊敬した。

 現在史上最多記録(68回)を持つミハエル・シューマッハーは、2006年のサンマリノGPでセナの記録を更新した際、「記録ではアイルトンを抜いたかもしれないが、彼を超えることは永遠にない」と語っていた。シューマッハーのこの言葉にはもちろん、一般的な意味でのセナへの敬意が含まれているが、それだけではない。実際にコース上で戦った者として、シューマッハーはセナのことを、己が超えられない最速のドライバーとして尊敬しているからこその発言ではないか。

 じつはシューマッハーはセナとレースをしていた4シーズンで一度もPPを獲得したことがなかった。シューマッハーが初めてPPを獲得したのは、セナが事故死した'94年のサンマリノGP直後のモナコGPだった。

 しかも、このときシューマッハーはPPからスタートしていない。それは、モナコGP主催者とFIAがサンマリノGPで亡くなったセナとラッツェンバーガーに哀悼の意を込めてフロントロウを空け、PPにセナの母国ブラジルの国旗をペイントしていたからだ。シューマッハーはその後方からスタートしたのだ。

 その後、彼が打ち立てたF1史上最多68回のPPは、すべてがセナ亡き時代に達成されたものということになる。

カナダGPでPP獲得したハミルトンへのプレゼント。

 その思いはハミルトンにとっても、同じだった。カナダGPでPPを獲得した直後のインタビューで、インタビュアーから「セナの家族から特別な贈り物があります」と言われて、セナのヘルメットをプレゼントされたハミルトンは、「その瞬間、震えが止まらなかった」と語った。その言葉が嘘でないことは、持っていたドリンクボトルとサングラスをその場に落としていたことが物語っている。

 ハミルトンにとって、カナダGPは195戦目。一方、セナが65回目のPPを獲得したのは亡くなった最後のグランプリである94年のサンマリノGPだから、162戦目のことだった。PP獲得率はじつに4割以上。これはハミルトンだけでなく、シューマッハーも到達できなかった異次元の世界だ。

【次ページ】 「セナのヘルメットは特別。テーブルの真ん中に……」

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