錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
錦織圭、全仏ベスト8で何を感じた?
回復力と笑顔と王者ナダルの言葉。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2017/06/13 11:40
錦織の課題=フィジカル面、というイメージが定着してしまったが、本人と周囲は着実に成長している実感がある。
最近の錦織からは、笑顔がちょっと減っていた?
もう一つの変化は、実は明確なものではない。2回戦で、昔なじみの地元フランス選手、ジェレミー・シャルディを破ったあとの記者会見でこんな質問が出た。
「最近の錦織君を見てると、なんかちょっと笑顔があんまり見られなくなったんじゃないかなあっていう気がするんですけど、プロも何年もやってると、ちょっとしんどい時期だよ、みたいな感じもあるんでしょうか」
軽く笑いが起こったのは、多くの記者たちが同じことを感じていたからだろう。笑顔がないというのは、楽しそうじゃないということを意味する。それはコートの上でも会見でもだ。
そうは感じていたものの、今ひとつ調子の上がらない本人を前にして、口に出しては言いづらかったことなのだ。その質問をぶつけたのは長くテニスを取材している専門誌の女性記者だった。嫌味のない聞き方に、錦織も思わず苦笑いして答えた。
「え~まあ、コート外ではけっこう笑顔なんですけど」
「え~まあ、コート外ではけっこう笑顔なんですけど。見せてないだけで……。なるべく笑顔を増やすように、がんばります」
それからの3回戦、4回戦、そして準々決勝と、日を追って錦織に“笑顔”が戻って来たように見えたのは思い過ごしだろうか。本来の躍動感が増していった。最近受け答えが単調になったように感じていた会見でも、言葉数が増えたような気がした。それも偶然か。ただ、周囲にテニスや体のプロフェッショナルはいても、そういう面を指摘する人は意外にいないのかもしれない。
笑顔が減ったなどと言うことも「心配しすぎ」なのだろうか。いや、そう思っていて聞けないこちらのほうが「気を遣いすぎ」だ。胸に手をあてた一件だった。