卓球PRESSBACK NUMBER
徹底マークの平野、不調脱した伊藤。
世界卓球の「みうみま」を徹底検証。
text by
高樹ミナMina Takagi
photograph byItaru Chiba
posted2017/06/07 17:00
アジア大会で世界ランク1位を破って衝撃を与えた平野美宇は、今大会でも本気の中国勢を相手にその実力が本物であることを証明した。
武器のロングサーブも狙い撃ちされ……。
丁寧の平野攻略には、もうひとつの要素があった。「昨年10月に優勝した女子ワールドカップあたりから効き始めた」と平野が言うロングサーブへの対応だ。
所属先であるJOCエリートアカデミーの宮崎義仁総監督によれば、「平野のロングサーブは数種類に増えた」とのことで、世界選手権でもロングサーブは大きな武器となり、準々決勝まで相手を苦しめた。
ところが、準決勝の相手である丁寧には通じなかった。ゲーム序盤に出したロングサーブを狙い打ちされてから、平野はほとんどロングサーブを出せなくなってしまったのだ。馬場監督や宮崎総監督は「打たれてもロングサーブを出していける勇気が欲しい」と話しているが、平野も「アジア選手権の時よりサーブが効かなくなっていた。ラリーになったらいい勝負だけど、全体的な実力は相手の方が上」と試合を振り返っている。
丁寧にも、巨大なプレッシャーがかかっていた。
確かに平野が丁寧に敗れたのは、戦術を確実に実行できる技術の差が大きいのだろう。だが、今回の場合はそれに加え、「絶対に負けるわけにはいかない」という中国、そして丁寧の並外れた危機感があった。
何しろ世界ランク1位でリオ五輪金メダリストの丁寧が、第1ゲームの序盤から雄叫びを挙げ、まだマッチポイントでもない場面で勝ったと勘違いして、ベンチに握手を求めに向かってしまったのだ。
常にポーカーフェースでロボットのようだと揶揄される世界女王がそれだけ冷静さを欠いたのは、平野を脅威に感じていたのと、世界王者のプレッシャーのあらわれだったといえる。
さらに試合を終えコートを後にしてから、丁寧が大粒の涙を流し泣いているのを宮崎総監督が目撃している。世界女王をそこまで追い詰めた平野の存在感を実感するとともに、丁寧と中国の本気を見る思いがした。