フランス・フットボール通信BACK NUMBER
アジア杯をTV観戦したら公開処刑。
イスラム国がサッカーを禁じた日。
text by
ジェレミー・ベルリオーJeremie Berlioux
photograph bySebastian Castelier
posted2017/03/23 17:00
イラクでは、ショートパンツやジャージの選手たちがサッカーの試合をする風景が、再び普通の光景になってきた。
サッカーは逮捕される恐れのある危険なスポーツ!?
原理主義者の伝統的な価値観では、ものごとが良き方向へと進むかどうかはもっぱら信者の美徳による。その結果どうなるか。
「誰もサッカーをプレーしなくなる。何故ならサッカーは逮捕される恐れのある危険なスポーツであるからだ」と件のジャーナリストは説明する。
'15年の冬の間、イラク第2の都市モスルは、イスラム国の首都でもあった。そこで彼らは、アジアカップのイラク対ヨルダン戦をテレビ観戦した13人の若者を機関銃で公開処刑した。他にもサッカー選手の処刑が報告されている。
ラビア市では、ワハム氏が辛抱強く状況の改善を待っている。彼にとってサッカーは人生を学ぶ学校であり、イスラム教の善行と何ら対立するものではない。だが、そうにもかかわらず、サッカーを実践するには今も危険と罠がつきまとう。心からサッカーを楽しめる日が、果たして本当にやって来るのだろうか?
ボールを含め、すべてが不足しているが……。
「サッカーはイスラム国よりも強い」とワハム氏はいう。
いつの日か彼のクラブが、近隣のチームを招いてトーナメントをおこなうことを夢見ながら、彼は“ダーイシュ”が去った後に残された限られた設備でサッカーを教えている。
ボールを含め、すべてが不足している。イスラム国はクラブのありとあらゆるもの、電球に至るまで持ち去った。彼らが破壊し尽したクラブハウスの傾いた屋根の上では、子供たちが無邪気に滑って遊んでいる。
その姿を眺めながら、ワハム氏は最後にこう語った。
「この子たちがあの時代をすでに忘れてしまったのだと、私はいうつもりはない。ただ、彼らは、今また楽しくこうして遊んだり、サッカーができるようになったことを喜んでいるだけなんだ」