ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
山中慎介はV12で“孤独”と戦った。
相手が弱すぎる、という難問の答え。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2017/03/03 12:20
山中慎介は血が滾る相手を探しながら、世界の頂上で孤独と戦っている。強すぎるというのも難儀なものである。
「今までの自分」を相手に集中力を研ぎ澄ます。
このような経緯で試合が決まり、山中はどのように気持ちを整え、今回の一戦を迎えたのだろうか。記者会見でモチベーションについて問うと、質問の内容を予想していたかのように、間髪入れず次のような答えが返ってきた。
「前回の試合(モレノ戦)は評価されたかもしれないけど、反省が多かったし、もっともっといい試合をしたいと思っている。だから油断はないし、モチベーションは高い。モレノ戦以上のインパクトを残したい」
前の試合を上回る、今までの自分を超える、勝ち負け以上に内容にこだわる─―。
そこにモチベーションを置けば、対戦相手や舞台の大きさは問題ではない。言葉にすると簡単なようだが、現実を正面から受け止めるというのは難しいものだ。かつて山中も対戦相手の実力不足を嘆いたことがなかったわけではない。
こうした状況で、統一戦やアメリカ進出という、自分の力ではどうにもできない希望をひとまず脇に置き、目の前の試合に集中して圧倒的な勝利を披露したのだ。山中の芯の強さ、チャンピオンとしての責任感に、あらためてうならされた。
13度目の防衛戦は先述のネリーとの指名試合、あるいは元WBAスーパー王者、フアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)、そのパヤノに勝ったルーシー・ウォーレン(米)あたりが候補に上がるという。防衛を重ね、KOを重ねる中で、ファンの期待は試合ごとに高まる。いかなる舞台においても、強烈なプレッシャーの中、山中は自らの限界に挑戦し続けているのだ。