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山中慎介はV12で“孤独”と戦った。
相手が弱すぎる、という難問の答え。
posted2017/03/03 12:20
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
WBC世界バンタム級チャンピオンの山中慎介(帝拳)が2日、両国国技館で挑戦者6位のカルロス・カールソン(メキシコ)に7回57秒TKO勝ち。12度目の防衛を成功させた。世界戦の長期防衛日本記録は言わずと知れた具志堅用高氏の持つ13度。山中のV12は国内単独2位となり、具志堅氏の大記録に王手をかけた。
試合そのものは山中の圧勝だった。チャンピオンが初回から伝家の宝刀、左ストレートを次々と繰り出した。「最初は左にうまく体重が乗らなかった」というが、それでも優位に試合を進め、5回に2度、6回に1度、7回に2度のダウンを奪ってTKO勝ち。パンチをもらうシーンもあり「相手が攻めてきたときの対処の仕方など課題はあった」と言いながら、「やっぱり山中は強い」と印象付ける試合となった。
今回の防衛戦は、いろいろな意味で難しい試合になるだろうと感じていた。対戦相手が問題なのではない。山中自身が、相手選手以外のさまざまな困難に立ち向かわなければならなかったからだ。
一番の敵はモチベーションだったのではないだろうか。帝拳ジムの本田明彦会長も試合後「モチベーションを作るのは大変だったと思う」と明かしている。
山中は昨年9月、実績も名前もあるアンセルモ・モレノ(パナマ)との再戦を劇的なTKO勝利で制し、ボクシング・メディアが選ぶ年間最優秀選手賞、年間最高試合賞、KO賞を受賞した。そんな山中のV12戦は、挑戦者選びから難航した。サウスポーの強打者であるという、ただでさえ敬遠されがちな要因があるのに加え、モレノ戦でさらに株を上げたことも影響した。
上位の相手に山中との対戦を拒否されて……。
日ごろから強い相手を求め続ける山中のために、帝拳プロモーションは必死になって相手を探した。現在2位にランクされているメキシコのルイス・ネリーは22勝16KO無敗の戦績で「ランカーの中ではおそらく一番いい選手」(本田会長)。当然オファーを出したが、「まだ若い」という理由で断られた。
IBF王者リー・ハスキンス(英)は法外ともいえるファイトマネーを要求してきたため、こちらもあえなく断念。
最終的にリングに上がったカールソンは実績に乏しく、モレノに比べれば明らかに格の落ちる相手だったが、ランカーの中で唯一挑戦を受けた選手だというから、これも致し方ないことである。