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PRIDEとRIZINの生き証人、川尻達也。
グレイシー戦敗北の痛みと重み。
 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

PROFILE

photograph bySusumu Nagao

posted2017/01/10 11:00

PRIDEとRIZINの生き証人、川尻達也。グレイシー戦敗北の痛みと重み。<Number Web> photograph by Susumu Nagao

勝負に出た踏みつけが結果的には裏目となった。だがそのアグレッシブな闘争心こそ、ファンが川尻に魅了される理由である。

PRIDE、戦極やDREAMが消滅しても来てくれた“上客”。

「PRIDEがなくなっても、戦極やDREAMがなくなっても、後楽園ホールやディファ有明に来てくれていた人たちが、僕にとっての“上客”なんで」

“冬の時代”と呼ばれても、リングの中、ケージの中は熱かった。むしろこの時期にこそ、世界的格闘技ブームが始まった。そういう時代を生き抜いたファイターがRIZINで輝く姿は、やはり格別だ。

「格闘技を長くやってると頑張る理由が増える」(所)

 大晦日、山本アーセンを鮮烈な腕十字でタップさせた所英男も、彼が生きてきた時代を背負っていた。入場時に着ていたのはレミギウス・モリカビュチスのTシャツ。この、所がHERO'Sで全国区になる以前、ZSTでライバル関係にあったリトアニアのストライカーは、12月21日に34歳の若さで亡くなった。射殺だったという。

 5年前の大晦日には、宮下トモヤというファイター仲間を失ってもいる所。レミギウスの死によって、年末の試合はますます特別な意味を持つことになった。天国のレミギウスと宮下に勝利を捧げよう。それが、所と彼のチームの合言葉になっていた。

「格闘技を長くやってると頑張る理由が増えて、なかなかやめられないですね」と試合後の所。若い選手からは絶対に出てこないセリフだ。入場シーンだけで涙腺が緩んだファンもいたことだろう。

 そしてやはり、川尻達也に触れないわけにはいかない。UFCを離脱し、日本カムバックを決めた川尻に。RIZIN初参戦にあたって「ヌルいことはしたくない」と彼が指名した対戦相手は、ヒクソンの息子にしてフューチャー・レジェンドであるクロン・グレイシー。MMAのキャリアはまだ浅いが、川尻は「彼が“グレイシー”として生きてきた時間は僕の格闘技歴より長い」と言う。

【次ページ】 この10年間で格闘技ファンが最も思いを託した存在。

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