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単独無寄港世界一周レース、リタイア。
白石康次郎の思いは次なる挑戦へ。
text by
矢部洋一Yoichi Yabe
photograph byYouichi Yabe
posted2016/12/21 08:00
“サムライコージロー”は、今回のリタイアを糧にし、すでに次の目標に向けて始動している。
12月4日午前2時半。聞こえてきた「グシャ」という音。
「バーンという大きな音ではなく、グシャっという音がした。ぱっと起きて計器を見たら、風速計などがすべてゼロになっていた。てっきりマストの上のセンサーが飛んだのかと思って外に出てみたら、マストの上部が折れて半分ぶら下がっていた。もう唖然としました」
時間は12月4日午前2時半、南緯は39度を超えていた。あと少し待てば、徐々に空が明るくなっていく。
しかし猶予はない。
折れたマストが落ちてくれば船体を壊してしまう。白石は即座に事態を見極めて、当面の危険を回避しショアチームに報告。明るくなるのを待って、折れたマスト上部の切り離しや、海中に浸かったセールの回収作業に全力を傾けた。
「神様これ以上どうしたらいいんですか」
幸い、船にも自分にも怪我はなく、夕方までかかって安全を確保。しかしレースの続行は不可能だった。チームとも協議の上、やむなくレース本部にリタイアを報告した。
「これだけ準備して、これだけうまくやって、自分の中ではこれ以上の努力はできないほどにやってきた。ヨットに限らずプライベートでも、人に対して自分が最大限できることを尽くしてきた。だから運も味方してくれて、船を手に入れて以来すべてが奇跡的とも言えるくらいスムースに運んだ。これで完走できないはずはないと、ずっと信じていた。
ところが、嵐でもなく、慎重すぎるほど慎重に走らせている時に、前触れなく突然マストが折れた。茫然とも違うし、悔しいとか悲しいじゃない、これ以上、俺はどうしたらいいんだろう、神様これ以上どうしたらいいんですか、という感じが一番大きかったかな」
12月7日、康次郎と「スピリット・オブ・ユーコー」号はアクシデントの場所から最も近かった港、南ア・ケープタウンに自力で無事に到着した。