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単独無寄港世界一周レース、リタイア。
白石康次郎の思いは次なる挑戦へ。
posted2016/12/21 08:00
text by
矢部洋一Yoichi Yabe
photograph by
Youichi Yabe
2016年12月3日、レースのスタートから27日目、白石康次郎の船は大西洋の南下を終えて、アフリカ南端喜望峰の沖を強い西風を追い風に受けて順調に走っていた。
スタート後およそ1週間続いたいつもの船酔いはもう収まって体調は良くなり、船の方にいくつか発生したトラブルも白石は着実に解決していた。これからの強風大波の南氷洋を走るスピードレースを前に、船の調整も大分出来、彼の準備は整っていた。それは白石の順位にも反映して、スタート直後の18位(29艇中)から、この時点で、すでに12位にまでポジションを上げていた。
先頭を走る上位2艇と、それを追う第2、第3、第4集団に参加全艇は大きく分かれていたが、白石は第3集団の2位。
「チーム全員で最高の準備ができた。上位集団にあまり離され過ぎずにしっかり自分の走りを続けられれば、振り向けばきっと10位かそれ以内という結果で終われると思う。船の性能に不足はない」と公言していた白石の言葉通りの展開に、ここまでは推移していた。
しかも、これまでに優勝候補の2艇を含む4艇が艇体にトラブルを起こして、リタイアし、レースを続けていたのは全25艇に減っていた。
風が少し弱くなってきていた時のこと……。
12月3日の昼に白石が陸上のショアチームに送ったレポートは、その時の海況を想像させるに十分な短いものだった。
「風速40~50ノット、波高6メートル、かなり荒れている。船も僕も大丈夫。写真だけ送ります」
そして日没前、相変らず50ノットの突風が時に襲うため、白石は夜に入る前、船を壊さぬようにセールを小さく縮めた。皮肉なもので、そうすると風は少し弱くなっていった。彼が船の中で、「セールをもっと広げようかなあ……」と思っていた矢先のことだった。