野球場に散らばった余談としてBACK NUMBER
福原忍、18年間のプロ生活に終止符。
引退登板で恩師を落涙させた「足跡」。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/10/08 11:30
長年にわたって声援を受けて上がった甲子園のマウンド。熱烈な阪神ファンが見守る中で福原はすべての人への感謝を告げた。
スライダーの投球技術に福原の「足跡」が。
あれから、ずいぶんの時がたち、高橋は68歳になった。長らく野球を通じて学生と向き合い、愛情を注いできた。教え子の去り際に接し、最後の晴れ姿を見届けることほど、感慨深いものはないだろう。引退セレモニーを終えた福原と顔を合わせると「体もばらついていない。お前、もう1年くらいやれたんじゃないの」とねぎらいの言葉をかけた。そして、高橋はどうしても聞かずにいられないことが1つだけあった。
「あのスライダー、どうやって投げるんだ?」
その場で教わったリリースのコツに、目から鱗が落ちる思いだった。
「いままで聞いたことがない投げ方なんだ。彼は最後、球を離す瞬間、人差し指でシュートをかけるように押し込んで投げていたんだ」
スライダーは、通常、もっとも長い中指にウエートがかかる。そこから、添える人差し指の内側で最後のひと押しをかけることで、スピンが強くなるという。速球にこだわっていた教え子は、いつの間にか、果てしなく遠いところまで行っていた。
名伯楽は埼玉の東洋大グラウンドで笑う。
「早速、学生に言って聞かせたよ。福原は、こんなふうに投げているぞって。今日もさ、ちゃんとできたか、聞かないといけないな」
福原忍が18年間、夢中で駆け抜けた道は途絶えていない。後ろを振り返れば、かつての自分のように、後輩たちが追うように歩いていた。