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長谷川穂積は美しく散りなどしない。
記録より、記憶に残る王座返り咲き。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byTsutomu Takasu

posted2016/09/20 11:30

長谷川穂積は美しく散りなどしない。記録より、記憶に残る王座返り咲き。<Number Web> photograph by Tsutomu Takasu

今後はまだ考えていないという言葉からは、いかに長谷川穂積がこの試合に全てをかけていたかが窺えた。

穂積「ここはチャンスだと思ったんです」

「最後の打ち合いで、僕がクリンチとか休むんじゃなくて、打ち合って打ち勝ったというところが今回の試合の勝因そのものだと思います」

 試合後の控え室で、勝因を問われた長谷川はこう答えた。そして続けた。

「ここはチャンスだと思ったんです。相手の攻撃が粗かったので」

 前出の佐藤(彼もまたディフェンスに長けたチャンピオンだった)は長谷川のコメントを知らない状態でこう語っている。

「最後はヒヤヒヤしてマルチネス戦を思い出しました。でも僕たちからそう見えても、長谷川さん的には“大丈夫”という感覚だったんだと思います」

 ただやみくもに打ち合ったのではない。悪いところを練習で修正し、序盤からルイスの動きをしっかり観察した上で、リスクを冒しながらも“勝算あり”の打撃戦に打って出たのだ。最後に勝利を引き寄せたシーンは、ひょっとすると今は亡き母は好まなかったかもしれないが、勝負の世界に生きる男には譲れない選択だったのである。

 試合翌日、長谷川はバッティングでカットした左目じりをテープで押さえ、メガネ姿で記者会見に現われた。同席した山中慎介(帝拳)に比べて多くを語らなかった長谷川の第一声は「勝ったという結果がすべてなんで、いまはほっとしています」だった。

 たとえ負けても感謝の言葉を贈りたいくらい気持ちで駆け付けた6000人超えのファン。だれもが長谷川を愛し、おそらくたとえ負けたとしても惜しみない拍手が送られるであろう試合で、長谷川は徹底して勝負にこだわり、そして勝利した。

 美しく散ってなどなるものか──。

 誇り高きボクサーはリングの上で己の生き様をまざまざと見せつけた。

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