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マンセル電撃引退から24年――。
マッサの会見にウイリアムズの情が。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2016/09/11 07:00
引退会見で妻、愛息、父親とともに写真に収まったマッサ。2008年はわずか1ポイント差で年間王者に届かなかった。
広報担当は「会見を中止させろ!」と告げたが……。
そのとき、ウイリアムズで広報を務めていたアン・ブラッドショーは後日、その引退会見を次のように述懐していたものである。
「私もあの引退会見は忘れられない。ナイジェルはチームに何も告げずに自分で決行したんだから。じつは私がナイジェルの動きを察知して、そのことをフランク(・ウイリアムズ代表)に知らせると、フランクはすぐに自らのスタッフにこう告げたんです。『すべてナイジェルの望みどおりにするから、会見を中止させて来い』」
しかし、一度狂った時計の針は元には戻らない。ウイリアムズから送られてきた使者の制止を振り切って、引退会見を続けたマンセルは、ついにこう宣言するのである。
「私の力が及ぶ範囲外のことで、私は今シーズン限りでF1を引退する決意をしました」
24年後のモンツァでマッサの引退会見が開催された。
その会見が行われたのが、イタリアGP決勝レースを目前に控えていたモンツァだった。それから、24年――そのモンツァでウイリアムズが緊急引退記者会見を開いた。ただし、それはドライバーが勝手に開いたものではなく、チームが会場をセッティングし、会見場の最前列には家族のための席が用意されるという和やかな雰囲気だった。
会見場に登場したのは、フェリペ・マッサ。ブラジル人で今年14年目のシーズンを送っているベテランの35歳のドライバーである。
「数カ月前から心の中で決めていた」というマッサ。決心を固めたのは、7月末のドイツGPが行われていたホッケンハイムリンクだった。モーターホームの自室に交渉を進めていたマネージャーを呼び出し、引退の意思を固めたことを告げた。
「僕はウイリアムズ以外のチームへ行くつもりはない。だから、もう交渉はストップしてもらっていい」