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4年ぶりに5勝を挙げた中日・吉見一起。
覚悟を持って「最後」のマウンドへ。 

text by

鈴木忠平

鈴木忠平Tadahira Suzuki

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photograph byNIKKAN SPORTS

posted2016/08/27 11:00

4年ぶりに5勝を挙げた中日・吉見一起。覚悟を持って「最後」のマウンドへ。<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

2015年シーズンは開幕から25イニング連続無失点を記録していた吉見。今季は全試合に“最後”の覚悟で臨んでいる。

投手としての“死”から4年ぶりに“再生”。

 シーズンオフ、痛みの原因となっていた、癒着した神経を剥がす手術を受けた。これまで、はるか遠くの「復活」ばかりを追っていた男が目の前の一歩だけを見つめて進むようになった。すると不思議なことに、ダンベルも、ランニングも苦しくなくなった。今年2月のキャンプ中は練習休みの度に自費で名古屋に戻って、治療に通った。今シーズンが始まっても、週に3度はほぼチームと別行動で病院に向かった。孤独にも慣れた。そうやって、今に辿り着いた。

「復活ですか? それは僕以外の人が決めることですが、僕としては引退するまで『復活』することはないと思います。過去に戻ることはできませんから。手術してからは、新しい自分を作りあげるというつもりで、ここまでやってきました」

 5勝するのも、10試合以上投げるのも4年ぶりのことだ。周りは復活と言うかもしれない。ただ、吉見はそう思っていない。それは投手としての“死”を覚悟したところから生まれた再生だった。生々しく残る右肘の大きな傷痕が、その象徴だ。

 あれから1年、8月26日を前に白星を報告することができた。何よりも、投げている姿を空に届けることができた。そう、「一起」という名は、何があっても起き上がるという意味を込めて、父がつけてくれたものだ。

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吉見一起
中日ドラゴンズ

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