マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
甲子園は「いかに負けるか」である。
高川学園・山野が履正社に投じた109球。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2016/08/13 07:00
圧倒的不利という下馬評を覆すことはできなかったが、高川学園・山野は明らかに大会屈指の投手だった。
この2人は、プロで向き合うことになるはずだ。
高川学園打線を2安打に抑えた寺島成輝が、9回投げて137球。この球数も立派だったが、5失点の8イニングを109球でまとめた山野太一も、互角の奮投といってよい。
強打線の豪快スイングにも一歩も退くことなく、ひたすらストライクで勝負を続け、真っ向から闘った証拠の109球だった。
持てる力をすべて出し切って、尚、力及ばず。
高校3年の夏。敗れて涙する投手は、実はそんなにいない。
とりわけ渾身の奮投の末に敗れ去ったエースたちの、すべて出しきった達成感に満ちた表情は透きとおるように美しい。一種、放心のようにも見えるすっきりとした横顔。
誰もがドラフト1位指名確実と称える剛腕を向こうにまわし、誰もが優勝候補の最右翼に挙げるチームの強打線に、逃げずに勝負を挑んだ“小さなサウスポー”。
おそらく、10年のうちにこの2人の左腕はプロ野球という桧舞台で、この夏と同じように向き合うことになろう。
持てる力をすべて出し切って、尚、力及ばず。
2016年・夏。
“最高の負け方”で甲子園を去った快腕の記憶は、私の中に長く残るはずだ。