ル・マン24時間PRESSBACK NUMBER
予想できなかったラスト1周の悲劇。
トヨタがル・マン初制覇を逃した瞬間。
text by
赤井邦彦Kunihiko Akai
photograph byTOYOTA
posted2016/07/05 11:20
ファイナルラップでのアクシデントは、トヨタ陣営だけでなくライバル陣営、観客、レース関係者すべての人にル・マンの厳しさを知らしめる瞬間となった。
優勝争いはトヨタとポルシェの一騎討ちに!
レースが終盤を迎えると、2台のトヨタ、1台のポルシェのトップ争いになった。
アウディは序盤に1台がターボチャージャーのトラブルで遅れ、ポルシェも1台がウォーターポンプの交換で大きく遅れた。トヨタは夜の間に6号車がLM-GTと接触して修理に時間を取られ、またコースアウトしてグラベルからの脱出に時間がかかってヒヤリとするも、終盤の挽回でトップ争いに加わって来た。
レースも残り4時間となる頃、印象的なシーンが見られた。ピットインのタイミングで一旦はトップの座をポルシェ2号車に明け渡してしたトヨタ5号車だったが、長い直線のユノディエールでスリップ・ストリームに入ると一気に抜き去り、トップの座を奪い返したのだ。
レースはそのまま、トヨタ5号車とポルシェ2号車が僅差でトップを争う形で最終盤までもつれ込んだ。ゴールまであと約15分、トヨタに追いすがっていたポルシェが突然のピットイン。後輪を交換してレースに復帰するも、その差は1分半に開き、この時点でトヨタの優勝はほぼ確実と見られた。30年に及ぶル・マン挑戦の歴史で、ようやく栄光の勝利を手中に出来る瞬間が訪れようとしていた。
「まったくパワーがでない」という悲痛な声。
トップを走るトヨタ5号車の中嶋一貴から、「まったくパワーがでない」という無線連絡がピットに入ってきたのは、ゴールまで1周と少しを残した時だった。
突然スピードの落ちたクルマの運転席で、中嶋は出来る限りの緊急修復作業をトライしたが、その労はついに報われることなく、メインストレートで停止してしまった。その横をポルシェ2号車が駆け抜けて行く。トヨタが99.9%手にしていた勝利を逃した瞬間だった。
その瞬間、トヨタのピットではチームスタッフ全員が嘆きの声を上げ、泣き崩れる者もいた。
トヨタ5号車がスピードを落としたとき、後ろにいた同6号車を運転していたステファン・サラザンは、「ゴールラインを一緒に横切るために待っていてくれているのかと思った」そうだ。ところが無線で「抜いていけ」の指示。その時5号車にトラブルが発生したことを知ったという。