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佐藤琢磨担当エンジニアが現場復帰。
ホンダが見せた本気の「人事異動」。

posted2016/02/28 10:30

 
佐藤琢磨担当エンジニアが現場復帰。ホンダが見せた本気の「人事異動」。<Number Web> photograph by Masahiro Owari

前任者の新井康久氏(左)と握手を交わす長谷川祐介総責任者。第3期に不完全燃焼に終わった無念をぜひとも晴らしてほしい。

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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 2月23日にホンダが人事異動を行ない、F1プロジェクト総責任者を交代させると発表した。しかし、日本から約1万km離れたヨーロッパの人々の中には、日本の企業文化ともいえる人事異動を理解できない者が少なくない。とりわけ、人事異動という言葉すら存在しないF1の世界では、それは顕著である。

 現在のF1チームは、トップチームが600人から1000人ほどのスタッフを抱え、日本の大企業並みの規模を誇っている。それでも、フェラーリやマクラーレンが定期的に人事異動を行なうことはない。日本企業のこうした風習にF1の関係者が驚いたのは、今回が初めてではない。例えば、2007年にはトヨタのチーム代表を務めていた冨田務が本社の人事異動によって退任。しかも、辞令が出されたのが6月だったため、シーズン途中での異例のトップ交代となった。

F1チームは本来個人商店の集まり。

 あるヨーロッパのF1関係者は、F1チームと日本の企業の違いをこう表現したことがある。

「日本では社員は会社に属した後、会社の決定で配属先が決まるが、スペシャリストが集まっているその他のF1チームでは基本的に配置転換することはない。チームの中に、個人商店がたくさん営業しているようなものだ」

 したがって、特定の部署に欠員が生じれば、チーム外からヘッドハンティングするというのがF1界のやり方である。その文化の違いはどうであれ、F1の世界で人事異動によって日本人スタッフが新たにチームにやってくると、まず最初に海外のメディアから「名前をどう発音するのか?」という質問攻めに遭うことが少なくなかった。

 しかし、今回人事異動によってやってきたホンダの総責任者について、バルセロナのメディアセンターで名前の読み方を尋ねられることはなかった。なぜなら、新しく就任した長谷川祐介総責任者は単なる社員ではなく、かつてF1の世界でレースしたことがある「戦士」だったからである。

【次ページ】 ビルヌーブや琢磨を担当し、チーフエンジニアに。

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