相撲春秋BACK NUMBER
イケメン力士のストイックな素顔。
遠藤、いまは徹底的な治療の時を。
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byKyodo News
posted2016/02/09 11:50
初場所2日目、御嶽海と対戦する遠藤(右)。学生時代から対戦経験がある2人。御嶽海は遠藤の2代後のアマチュア横綱でもある。
「ジムに行ったら、もう遠藤がいる」
「花道を車椅子で下がっていく姿を見て、『強いなぁ……』と思いましたよ。あの痛みはすごいものがあるのに、少しも顔に出していなかったですから。俺、遠藤とトレーニングジムが一緒なんですよ。大阪場所を終えて東京に戻り、ジムに行ったら、もう遠藤がいるんです。びっくりしました。脚はまったく動かせなくても、ほかを少しでも鍛えようとしていたんでしょう。『やる気だな。きっと次の場所、遠藤は休場しないな』と思いましたもの」
妙義龍の読み通りに、翌場所、遠藤は強行出場した。大学3年時に右脚の前十字靱帯断裂を経験していた遠藤だが、当時も手術はせずに「保存療法」を選択し、リハビリと筋トレに励んでいたという。靱帯を、周囲の筋力を強化してカバーするためだ。その右脚の状態が良好なことを改めて確認した上で、「これならば、今回の左脚も手術せずに済む」との判断だったという。
「靱帯について語らせたら僕の右に出る者はいないですよ(笑)」という妙義龍が、さらに説明してくれた。
「靴のひもと一緒で、いつしか緩んできてしまうもの」
「僕も大学時代に右膝の靱帯を断裂し、この時は手術はしなかった。でも、たとえて言うと、靴のひもと一緒で、いつしか緩んできてしまうものなんですね。またいつ切れるかわからないし、常に爆弾を抱えているようなものなんです」
'10年1月、晴れの新十両の場所で、左膝前十字靱帯を断裂した妙義龍は、靱帯再建手術に踏み切ったという。
「半年間、3場所休場して三段目まで番付を下げました。手術をすると、しっくり来るまで時間は掛かる。でも、その後は一気に関脇まで駆け上がれましたから。手術をするもしないも、一番大切なのは“絶対に復活する”という強い意志ですよ」
妙義龍が言うところの“爆弾”を左脚に抱えたままの遠藤は、昨年11月に右足首を痛めていた。場所中の取組でさらに悪化させ、これが休場の直接の原因となってしまった。現時点でも、やはり手術は回避する方針だと師匠は明かす。
元横綱武蔵丸の武蔵川親方は、「治す時に、徹底的に治すことが大事だ」と、熱を持って語る。