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15歳の卓球五輪代表・伊藤美誠。
母の猛特訓と、規格外のメンタル。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/01/26 12:00
2015年9月の段階で伊藤美誠は世界ランキング10位、福原愛と石川佳純に次ぐ日本人3番手につけ、リオ五輪代表に選出されている。
母の“卓球中継胎教”。
この時の戦いぶりが伊藤をリオの代表入りに大きく近づけることになるのだが、その成長の過程についてはNumber894号掲載の記事をぜひともお読みいただきたい。
今回の取材では、伊藤の母・美乃りのインタビューも行われた。娘が3歳になる前から始まったという卓球の猛特訓。その真相を確かめたかったのだが、母の発する言葉は取材陣の想像をはるかに超えていた。
「私は卓球が大好きで、社会人でも選手としてクラブチームに所属していましたし、テレビで試合を見るのも好きだったんです。妊娠期間中、美誠はお腹にいて映像を見れないので、私が見たままを実況中継して聞かせていました。口元からお腹に届くように曲がった筒を手づくりで用意して……」
ただその頃は、娘を卓球選手にしたかったわけではないという。自分が好きなものを伝えたい、同じ空間で感じてほしい。“卓球中継胎教”は、そんな気持ちの表れだった。
「素晴らしい子育てをされましたね」
しかしラケットを握るようになった娘の姿に、母は衝撃を受け、自身の選手生活をなげうってでも指導に全てを捧げる覚悟をする。卓球場では心を鬼にして厳しく接し、小学生の伊藤を連れてメンタルを専門とする大学教授に診てもらいにいったこともある。
「この子、どうでしょうかと話をしていたら、先生の目の前で美誠が爆睡し始めたんですよ。すると先生が言ったんです。『お母さん、もう答えは出てますよ』って」
大学教授は朗らかにこう続けたという。
「メンタルトレーニングが必要なのはお母さんです。なぜなら僕にアポをとって会いに来た人は今までいませんから。この子? 必要ありませんよ。寝るということは『私はあなたを必要としていません』ってことですから。子ども心にそれが分かっているんです。お母さん、素晴らしい子育てをされましたね」
美乃りのインタビューの間に写真撮影を終えた伊藤は、少し退屈そうにベンチで待っていた。そして気がつくと、ベンチに横になり、深い眠りについていた。
「もう十分でしょ」
規格外のメンタルをもつ15歳の心の声が聞こえた気がした。