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エースのエゴか、チーム愛なのか――。
ロッテ・涌井秀章、最多勝の真相。 

text by

永田遼太郎

永田遼太郎Ryotaro Nagata

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photograph byNIKKAN SPOPTS

posted2015/12/29 10:40

エースのエゴか、チーム愛なのか――。ロッテ・涌井秀章、最多勝の真相。<Number Web> photograph by NIKKAN SPOPTS

シーズン最終戦での涌井。オフの契約交渉では「来季は優勝したい」とチームを鼓舞する発言も。

チーム全員の力で勝ち取った最多勝の栄誉。

 あの日、1-1で迎えた6回裏、涌井は東北楽天のウィーラーの中前適時打と、フェルナンドの左中間を破る適時二塁打で2点を奪われて6回終了時3失点。誰もが彼の交代をそこでいったんは考えた。

「本当は点を取られた6回で代わる予定だったんですよ。それでグローブを持って、ベンチの後ろへ戻ったら、そこへ落合さんがやって来て『この回(7回)に点が入らなかったら代わろう』と、『でも、もしこの回に味方が点をとってくれたら最後まで……。延長になろうとどこまでも行こう』と」

 すると、7回表にロッテは伊志嶺翔大と井口資仁が四球を選び、さらに内野ゴロ、これに絡む相手守備のミスもあってノーヒットで同点に追い付いた。ベテランと若手が繋いで、涌井に「なんとかタイトルを……」と、野手陣が意地で奪った2点だった。

 その後、3-3の同点のまま長く均衡が続いたが、延長11回に再び打線が粘投の涌井に応えてみせた。岡田幸文と今江敏晃が四球を選び、荻野貴司が左前安打でチャンスを作り、最後は清田育宏の押し出し四球と鈴木大地の右中間適時二塁打で勝ち越しに成功。この結果、涌井は10回137球を投げて最多勝のタイトルを手にすることができた。

 ベテラン、若手、投手、野手、そして首脳陣のチーム全員で勝ち取ったタイトルだ。

復活の原動力となったPNFストレッチとは。

 こうした野手の意地を目の当たりにした涌井だったからこそ、彼は、彼の言う“準備”を怠らなかった。

 その準備が、涌井が2013年シーズン終盤から続けているPNFストレッチだ。

 PNFストレッチとは元々、脳血管障害のリハビリで生み出されたトレーニングで、収縮させた筋肉をストレッチにより伸展させ、これを繰り返すことで神経を末端まで通わせ、合わせて運動能力も高めていくというもので、中4日の登板が主のメジャーリーグでは、コンディションの調整に使う選手も多い。涌井も、巨人で活躍する内海哲也が続けていたことから2013年に知り、周囲のトレーナーを通じて始めた。

 実は今季、涌井が復活した理由もこのPNFストレッチが深く関係している。

 今季終了時まで千葉ロッテでトレーニングコーチを務めていた大迫幸一氏は、シーズン終盤戦を迎えたある日、こんなことを話してくれた。

「今はローテーションがあるからカードによって空けたり、縮めたりしているけど、僕は中4日でも全然いけると思っていますよ。かえって一度(MAXまで)仕上げちゃった方が今よりも能力が抜けるかもしれない。あいつはそういうタイプですから……。中5日なら5日、4日なら4日で行けばいいんですよ。ヘロヘロになるまで。僕はずっと彼を見てきているから何も心配していないですよ」

【次ページ】 中5日のCSでみせた力投は“準備”の賜物。

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