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武豊のJRA全GI制覇は実現するか?
馬よりも騎手に注目の朝日杯FS。
posted2015/12/19 08:00
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Yuji Takahashi
「馬が競う」と書く競馬で、今週は、馬より人に注目が集まりそうだ。2歳王者を決める第67回朝日杯フューチュリティステークス(12月20日、阪神芝外回り1600m、2歳GI)で、武豊が、本命視されているエアスピネル(牡、父キングカメハメハ、栗東・笹田和秀厩舎)に騎乗する。勝てば、史上初のJRA平地GI完全制覇という偉業になる。
JRAの平地GIは22レース。2012年のマイルチャンピオンシップを制して「あとひとつ」とした大記録を、自身の手綱で'05年の秋華賞を勝ったエアメサイアの仔で狙う。
「お母さんとは毛色も体型も違いますが、走る能力は受け継いでいる。一流馬特有の背中をしています。この馬を2歳チャンプにしたいですね」と武。自らの記録に関しても「年に一度しかないチャンスだし、ここまで来たら勝ちたい」と意欲を見せた。
エアスピネルは、今回と同じコースで行われた新馬戦を楽勝。前走のデイリー杯2歳ステークスでは、好位の外目を追走し、直線で3戦無敗のシュウジを抜き去って最後は流すようにして3馬身半突き放した。
すっと好位につけるレースセンス、他馬を並ぶ間もなくかわす瞬発力、道悪でも鈍ることのない伸び脚、母の全12戦に騎乗した天才が鞍上――と、すべてにおいて突出している。
唯一の欠点とされているのは、母にもかいま見られた気性的な難しさだが、危うさをかかえる馬のコントロールにかけては天下一品なのが武豊だ。先週の香港カップを絶妙なラップで逃げ切ったエイシンヒカリも、1年ほど前に東京の直線で内埒沿いから外埒沿いまで逸走した「前科」のある馬だが、それを完全に忘れさせるレース運びだった。
エアスピネルを管理する笹田調教師は、伊藤雄二厩舎の調教助手時代、母エアメサイアに携わっていた。
「人」が大切に育んできた血の力が、大舞台でいかに結晶するか、楽しみだ。
阻むとしたら、弟・幸四郎のイモータルか。
武の大記録を阻むとしたら、弟の幸四郎が騎乗するイモータル(牡、父マンハッタンカフェ、栗東・須貝尚介厩舎)あたりか。前走のサウジアラビアロイヤルカップでは、直線、前が詰まるシーンがありながら、最後は凄まじい脚で鼻差の2着に追い込んだ。
乗る予定だったライアン・ムーアが香港で騎乗停止になったため、急きょ手綱をとることになった武幸四郎は、'00年の秋華賞を10番人気のティコティコタック、'03年のNHKマイルカップを9番人気のウインクリューガー、'06年の菊花賞を8番人気のソングオブウインドで制するなど、大舞台でよく穴をあける。本人も「おれ、(兄の記録阻止を)やってしまうかもしれない」と思っているのではないか。