プレミアリーグの時間BACK NUMBER
頭の回転が足の回転に追いついた!?
本物のFWに“化けた”ウォルコット。
posted2015/10/11 10:30
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
AFLO
「魅力的だが本物の強さがない」
アーセン・ベンゲル率いるアーセナルは、2004年の前回リーグ優勝以来、そう言われるシーズンが続いていた。しかし今季は、優勝が現実的と言われる中で開幕3カ月目を迎えることになった。
同時にチームでは、「本物のストライカーではない」と言われてきたアタッカーが、優勝候補の1トップとして信憑性を高めている。センターFWとして先発が増えているセオ・ウォルコットだ。
昨季までのウォルコットは、華麗なパスサッカーで格下に圧勝する一方で強豪対決では結果を出せないアーセナルを象徴するような選手だった。快足ストライカーとして台頭したサウサンプトンから引き抜かれたのは、16歳だった'06年1月。マイケル・オーウェンの再来としてイングランド全土から期待を寄せられたが、フィジカル不足でもスピードを生かしやすい持ち場として与えられた右ウィングで、しかしトップクラスに成長し切れないまま9年が過ぎている。
本人がこだわりを持つセンターFWでも試されはしたが、本人のパフォーマンスも与えられた試用期間も不十分だった。結果、今夏には26歳という脂が乗り始めるはずの年齢でありながら売却が噂され、ファンの間で賛成意見まで聞かれた。
「足の回転に頭の回転がついていかない」と皮肉。
ポジションが前線の中央であれアウトサイドであれ、ウォルコットの泣き所は状況判断にあった。シュートかパスか、中に切れ込むのか外に流れるのかといった判断を誤り、自ら作りかけたチャンスを自ら台無しにしてしまうのだ。
ピッチ外での賢いイメージも、当人には不利に働いた。いわゆる進学校で教育を受けたウォルコットは、マイクを向けられてもハキハキと優等生的な回答をする。隣人として少年時代のウォルコットを知る人によれば、近所の評判は「サッカーもできる頭の良い子」だったそうだ。それがアーセナルでのピッチ上では、「足の回転の速さに頭の回転がついていかない」と皮肉を言われてきた。