ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
相手が強い程、山中慎介も強くなる。
V9のモレノ戦で引き出された“新技”。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2015/09/24 12:50
2011年に王座についてから、山中慎介の判定決着は3度目。判定が割れたのは初めてだった。
モレノ「アッパーを打ったら右が飛んできただろう」
試合後のモレノのコメントが興味深い。「ヤマナカは左より右が印象深かった。ジャブが良かった。(自らが得意のアッパーを打てなかった理由を問われ)もしアッパーを打ったらヤマナカの右が飛んできただろう」。
あれだけ左を外しておきながら、実は右にかなり苦しめられていた事実を明かしたのだ。試合中はまったく表情を変えなかったが、山中と同様にモレノも決して余裕はなかったのである。
試合翌日、山中は「評価は多少落ちたかもしれない」と口にした。メディアに「“神の左”不発」という見出しが躍ったことが頭にあったのかもしれない。確かにこれまでのようなノックアウトは披露できなかった。しかし、これこそが山中が心から望んでいた戦いだったのだ。ジャブの差し合いなど、これほど細かなテクニックをぶつけ合った相手は今までいなかったし、これほどの接戦、苦戦を強いられた相手も過去にはいなかった。
試合内容について「悔しさもある」とも語ったが、それは格下相手を仕留めるのに時間を要してしまった、などという悔しさとはまったく次元が違う。苦しくも充実した12ラウンドを戦い抜き、ボクサーとして成長できたという手ごたえを感じたに違いない。
次の標的はスーパー王者パヤノか。
さらなる進化を遂げた山中がその実力を発揮するためには、やはりふさわしい相手が必要だ。現時点ではモレノからタイトルを奪ったWBAスーパー王者、フアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)の名前が挙がっているが、すぐにまたモレノ級の相手と試合ができるかといえば、これまでがそうだったように、そう簡単ではないだろう。
それでもなお、渇きこそは山中というボクサーの活力で有り続ける。モレノ戦で一回り大きくなった姿を見せる日が、いつの日か必ずやってくるはずだ。