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相手が強い程、山中慎介も強くなる。
V9のモレノ戦で引き出された“新技”。

posted2015/09/24 12:50

 
相手が強い程、山中慎介も強くなる。V9のモレノ戦で引き出された“新技”。<Number Web> photograph by AFLO

2011年に王座についてから、山中慎介の判定決着は3度目。判定が割れたのは初めてだった。

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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 WBC世界バンタム級タイトルマッチが22日、大田区総合体育館で行われ、王者の山中慎介(帝拳)が挑戦者2位のアンセルモ・モレノ(パナマ)に2-1の判定勝ちを収めた。

 ジャッジ1人がモレノ、残り2人が2ポイント差で山中。関係者の間では「ドローが妥当ではないか」という声も上がるほどのきわどい勝利だったが、山中慎介というボクサーにとって、とてつもなく実りの多い12ラウンドとなった。

 世界チャンピオンでありながら、山中は飢えていた。飢えの源は、己と肩を並べるような実力を持つ対戦者の欠乏である。プロボクシングはトーナメント戦ではないし、たとえチャンピオンであっても「この相手とやりたい」と言ってやれるものではない。それぞれの陣営に思惑があり、ビジネスという視点を大いに踏まえ、試合は成立するのだ。

 残念なことに、山中は少なくとも4度目の防衛戦で迎えたホセ・ニエベス(プエルトリコ)から8度目のディエゴ・サンティリャン(アルゼンチン)まで、勝利を手にしながら満足という言葉を深くかみしめることはできなかった。

 確かに多くの試合で代名詞である“神の左”は炸裂したが、それは自らのパフォーマンスの高さというより、相手との力量差によるところが大きかった。周囲の目ではない。山中自身がそう感じていたのだ。

「倒して当たり前」ではない相手。

「ここ数戦にはないテンションの上がり方だった」。モレノとの一戦が決まり、山中はそう言って笑顔を見せた。

「倒して当たり前」の相手ではないのだ。待ちに待った挑戦者、モレノは2008年から'14年にかけ、WBAタイトルを12度防衛した実力者である。最大の武器はディフェンスで、伝家の宝刀たる山中の左ストレートを炸裂させるのは、至難の業と思われた。

 昨年9月に王座から陥落しており「下り坂の選手ではないか」と見る向きもないではなかったが、ふたを開けてみると、そのテクニックに錆びは微塵も浮いていなかった。事実、山中の左はなかなか火を噴かなかったのである。

【次ページ】 8回を終わってポイントはモレノ優位。

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