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錦織圭、立ちはだかる“BIG3”に挑む。
前哨戦で見せた不安も払拭、全米へ!
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byAFLO
posted2015/08/27 11:00
ウィンブルドン、ロジャーズ・カップと、度重なるケガに悩まされた今シーズンの錦織だが、すでに回復、全米には万全で臨む。マリーはロジャーズ・カップで3時間の激闘の末にジョコビッチを撃破。マスターズ11勝目を挙げた。
メンタルだけではフィジカルを支えきれなかった。
セカンドサーブでマリーは錦織のバックハンドにスピンサーブを深く入れてきた。高く跳ねるボールに、錦織は体をいっぱいに伸ばした状態での返球を強いられた。攻撃がままならないばかりか、悪い体勢からの返球がじわじわと体力を削り取ったのかもしれない。
錦織のセカンドサーブに対するマリーのアタックも執拗だった。常にコートの内側に踏み込み、攻撃的にリターンを打ち込んできた。長身を生かし、高い打点から得意のバックハンドでベースラインを深くえぐる。リターンから即座にネットをとる場面も多かった。第1セット、錦織のセカンドサーブ時のポイント獲得率はわずか19%。これだけ攻められては、このセットだけで3度のサービスブレークも致し方ない。
選手の心技体は、それぞれが補完しあってパフォーマンスを高めていく。サービスゲームでキープがままならず、リターンゲームでも攻撃が不発、それでも試合が形になっていたのは、錦織の心の強さがあったからだろう。しかし、第1セット終盤からフィジカルのハンディが増し、メンタルだけでは支えきれなくなった。
痛かったのは、3-4からのサービスゲーム、40-0からの逆転でブレークを許した場面だ。第2セットの最初のサービスゲームでも、40-15から逆転でブレークを喫した。簡単に心が折れるような選手ではない。しかし、意志に反して体が動かない。痛みをかかえ、スタミナは目に見えて減っていく。さらに、チャンスを生かせなかった落胆が追い打ちをかけたに違いない。そうして気力ががくんがくんと落ちていって、最後は崩壊、第2セットは0-6というスコアになった。
負傷は軽く、怪我の功名も。
決して無気力プレーではない。走れなくなっても、散発的ながら攻撃を繰り出した。最後まで最善を尽くしたが、マリーはそんな攻めが通用する相手ではなかった。
序盤の戦いぶりを見て、あるいは準々決勝のナダル戦を見て錦織に期待していた観客の落胆は大きかったに違いない。彼らから見ればその崩壊はあまりにもあっけなく、それがブーイングを呼んだのだろう。
幸い、臀部は軽傷で、数日の休養とリハビリでコンディションは戻ったようだ。その後、錦織はフロリダ州ブラデントンのIMGアカデミーでの練習を自身のアプリで公開、回復をアピールした。ブログには「感覚もこの何日間練習をしてていい感じ」「今週しっかり練習を頑張ってしっかり準備します」と書いている。
全米オープン開幕には十分、間に合うだろう。この期間にトレーニングが積めたことは明らかにプラス要因。文字通りケガの功名で、目減りしていた体力が満タンに戻れば、故障明けで準優勝した昨年と同じアプローチで全米開幕を迎えることができる。