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身長の有利無しでWNBAレギュラー!
渡嘉敷来夢、バスケ五輪代表の夢。
posted2015/08/24 12:15
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph by
Getty Images
「そうなんです! 大智さん、よくわかっている!」
5年前、当時18歳だった渡嘉敷来夢は、わが意を得たりとばかりに、そう言った。
『大智さん』とは、洛南高校卒業後にアメリカ留学した谷口大智(現bjリーグ秋田ノーザンハピネッツ所属・身長201cm)のこと。子供の頃から同年代の中で飛びぬけて長身だった谷口が、「日本では身体が大きいから人よりできて当たり前と言われていたことが嫌だった」と語っていたことを話したところ、渡嘉敷も同じように感じていたという。
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「大きいからできて当然だと思われるのが好きじゃない。それが嫌いだから外からのシュートができるようになりたいと思う。『あの人、でかいだけじゃないんだ』っていわれるような武器を付け加えたい」と言っていた。
得点王もMVPも優勝しても……当たり前の世界。
思えば、渡嘉敷は日本ではずっと「できて当たり前」の世界で生きていた。長身(現在192cm)だから人よりできて当たり前。高校時代(桜花学園)もWJBL(JX-ENEOS)でも、強豪チームに入ったから勝って当たり前──。チームでは常に中心選手で、連敗することも滅多になかった。得点王になっても、MVPを取っても、優勝しても、すべてが「当たり前」で片付けられた。
そんな彼女が今年春、単身海を渡り、世界最高峰のリーグ、アメリカのWNBAに入った。そして、そこには当たり前のことは何もなかった。ロスター枠も最初から約束されていたわけではなく、自分の実力で勝ち取らなくてはいけなかった。入ったシアトル・ストームは若手選手が中心の、再建期にあるチームで、試合に勝つことも簡単ではなかった。途中まで競ったり、リードしていても、詰めが甘くて落とす試合が続き、これまでのバスケ人生で一度も経験したことがなかった4連敗、5連敗を、わずか2カ月半の間に何度も経験し、勝つことの難しさに気づいたという。その一方で、その難しさが楽しくてしかたなかった。
開幕直後は控えからの出場だったが、それも久しぶりのことだった。チームの主力として計算されていない中で、自分がどんな役割をすればチームのためになるのかを考えながらプレーするようにしているという。
「交代で出る難しさであったり。逆に交代で出た時の武器であったり。そういうのも今はわかるようになった。自分の持ち味は走ること。交代で出ていったら自分が一番元気だから、こっちでは走れることを自分の武器にしている。
流れが悪い時は、自分が試合に出たことで流れを変えられたらいいなと思っていて、常に試合の流れは意識して見ている。そういうのも新しいですよね。新しいバスケットっていう感じがします」
当たり前のことがない世界は、思っていた以上に新鮮で、魅惑的だった。